研究課題
現生動物では,角やとさか等の構造に性差が見られることが多い.性差は,主に性選択により発達し,種分化・形態的多様性に深く関連している.一方,化石動物の中にも角やとさかなどを持つものが多くいたが,これらの構造に性差が見出されることは極めて稀である.本研究では,これまであまり用いられてこなかった骨組織学的成長段階推定に基づいて,化石種の性的二型評価手法の検討を行う.化石種の中でも特に本研究では、角竜類恐竜を対象として,性差・性別判定を行う.角竜類は,進化に伴って頭部後方にあるフリルを発達させた分類群で,そのフリル装飾の詳細な進化過程が研究されているグループである.また,角竜類のフリルは性的ディスプレイとして用いられ,性選択によって進化したと考えられていたが,最近では,フリルに性差が見られないことから,性選択以外のプロセスによってフリルが進化したとの仮説も提唱されているおり,性差の検討が大きく注目される化石分類群でもある.今年度は,1)セントロサウルスの薄片作成,及び,薄片観察の開始,2)プロトケラトプス標本の薄片作成体制の確立,3)プロトケラトプスのフリルの装飾に関する新知見の学会発表を行った.1)に関しては,申請者が発掘を行ったセントロサウルスの骨密集層から得られた四肢骨の実標本,及び薄片を所属大学で受け入れ,大型薄片作成が行える準備を終えた.また,博士課程で成長曲線を復元するために用いた薄片標本を用いて,各個体の骨の再構築度の検討を開始した.2)に関しては,申請者がモンゴル・ゴビ砂漠で発掘した10標本程度の化石剖出作業を終え,薄片作成の準備を終えた.3)に関しては,プロトケラトプスのフリルにこれまで見いだされていなかった装飾状の構造を報告し,プロトケラトプスにおける性差との関係性を論じた.
2: おおむね順調に進展している
角竜類恐竜の性差・性別を検討するために,年齢推定・成長曲線,フリル発達のタイミング,骨の再構築度の3点を知る必要があるが,セントロサウルスとプロトケラトプスでこれら3点を検討できる標本を揃え,一部観察を開始することができたため.
今年度で化石剖出など準備ができたセントロサウルスとプロトケラトプスの標本を順次薄片を作成していく.薄片作成完了後は,プロトケラトプスの成長曲線の復元,セントロサウルスとプロトケラトプスの骨再構築度の観察を行う.また,これ以外の角竜に関しても,共同研究者と相談の上,薄片作成・観察を行うことを予定している.
化石の剖出作業,及び,薄片作成に関して,人件費と謝金を支出する予定だったが,どちらの作業に関しても申請者本人が作業を行ったため,支出が発生しなかった.今年度は薄片作成・化石剖出作業を他研究機関の技術職員に依頼する予定のため,この支出に充てたいと考えている.
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すべて 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)