研究実績の概要 |
原生代前期の大気酸素オーバーシュート仮説を検証するために、浅海性堆積岩のモリブデン同位体比に着目し、この時代における大陸化学風化の化学的特徴を制約することを目標とした。本年度は、カナダ・ヒューロニアン累層群サーペント層の追加分析を行い、また新たに、ガーナ・ビリミアン累層群の砂岩試料の分析に着手した。サーペント層の分析結果は、昨年度までに本研究で得られていた結果と調和的であり、太古代や原生代前期の氷河性ダイアミクタイトから制約されている上部大陸地殻のモリブデン同位体比と概ね一致した (Greaney et al., 2020 EPSL)。この結果は、約23.5億年前における大陸化学風化が還元的な大気環境下で進行したことを支持しており、23億年前の堆積岩より報告された質量に依存しない硫黄の同位体効果(MF-S)とも調和的である (Poulton et al., 2021 Nature)。一方で、ガーナ・ビリミアン累層群の砂岩試料は、-0.8から0‰と低い値でばらつくことを確認した。この低い同位体比の一つの解釈として、大気酸素オーバーシュートに伴う酸化的風化の開始を示している可能性がある。しかし、ガーナ・ビリミアン累層群の砂岩試料におけるモリブデン同位体比が、海底における化学反応の情報を記録している可能性は否定できない。ガーナ・ビリミアン層群より得られた結果の意義を明確にするためには、今後、堆積年代や堆積環境をより詳細に制約していくことが必要であろう。
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