研究実績の概要 |
本年度は、東インド洋東経88度測線のクロロフィル極大深度で採取した懸濁態有機物中のヘムBの濃度分布の規定因子を明らかにすべく、同水深で採取した懸濁態有機物に対して各種化学分析を行った。具体的には、光合成色素(クロロフィル・カロチノイド)組成に基づいた植物プランクトンの群集解析と、クロロフィルおよびジビニルクロロフィルの窒素同位体比分析による植物プランクトンの窒素源解析を行い、その結果をまとめた論文をGeochemistry, Geophysics, Geosystems誌に発表した。これらの環境因子と、これまでの培養実験で得られたデータに基づいて、当海域のヘムB濃度の規定因子と生物源鉄量を解明するという内容で論文化を進めている。 また、海底堆積物中のヘムBの起源や動態を明らかにすべく、堆積条件の異なる日本海、相模湾、アデン湾、北太平洋、ナミビア沖の海底堆積物に対してヘムBの定量分析を行った。ヘムB濃度が特に高かった相模湾とナミビア沖の堆積物に関しては、その炭素・窒素安定同位体比を測定することにも成功している。同じテトラピロール骨格を持つクロロフィルaの炭素・窒素同位体比がヘムBとは異なっていることから、堆積物中のヘムBは海洋表層の光合成生物のみに由来するわけではないことが明らかになった。その起源生物を明らかにすべく、珪藻、緑藻、紅色硫黄細菌、動物プランクトンの培養試料からヘムBを単離・精製し、炭素・窒素同位体比を決定した。前年度の分析結果(シアノバクテリア、メタン菌)も踏まえて、現在、堆積物中のヘムBの起源生物群の解析を進めている。また、上記の内容をまとめて論文化を進めている。
|