研究課題
本研究課題では、現在から太古代までの地球史を通した大気二酸化炭素分圧変動を解明することを目的とし、熱水性石英試料中に含まれる流体包有物の溶存ガス分析に取り組んでいる。令和元年度は、ガス分析ラインの修復、コンディションの調整、並びに分析に用いる4500万年前、24億年前、35億年前の熱水性石英試料の岩石記載、試料の切り出し、洗浄、並びに流体包有物の氷点ー均質化温度測定を行った。熱水性石英試料の記載を行った結果、24億年前、35億年前試料には、多量の流体包有物が含まれていることが明らかになった。一方で、大気二酸化炭素濃度復元法の確立に用いる4500万年前試料中には、流体包有物が微量にしか含まれていないことが明らかになった。ガス分析ラインのブランク測定を行ったところ、4500万年前の試料を測定するには、不十分な状態であることが明らかになったため、ガス分析ラインのパーツ交換、ベーキング等の措置を行い、ガス分析ラインの改良を試みた。この改良により、ガス分析ラインのバックグラウンドを有意に下げることに成功し、次年度以降の測定の土台を築くことができた。4500万年前試料の流体包有物を氷点測定し、流体包有物の塩濃度が大気二酸化炭素と平衡な海水と同程度であることが明らかにした。石英試料中の流体包有物の多くは気相を含まず、液相のみからなる包有物であるため、熱水性石英並びに流体包有物が100℃以下の低温で形成されたことを示す。この結果から、この流体包有物に含まれる熱水は、海水起源であり、海洋底熱水変質作用のうち、off-axsisな低温の熱水変質作用を被ったものであることが示唆された。
3: やや遅れている
令和元年度は、4500万年前の試料を用いてガス分析、溶存イオン分析を行い、大気二酸化炭素分圧を推定する予定であったが、4500万年前試料の包有物が微量であったため、ガス分析ラインの改良が必要となり、計画の達成には至らなかった。しかし、他の時代の試料の岩石記載、試料調製が計画以上に進んだこと、ガス分析ラインの改良に成功したことは計画以上の進展である。したがって、全体の進捗状況は「やや遅れている」と判断した。
令和2年度は、改良したガス分析ラインを用いて4500万年前、24億年前、35億年前試料の分析を行い、測定した試料を用いて溶存イオン分析を行う計画である。令和元年度に4500万年前試料中の流体包有物が微量であることが明らかになったので、流体包有物が多量に含まれている24億年前と35億年前試料の溶存ガス分析、並びに溶存イオン分析を先に行い、分析感度と精度を確認した後に、4500万年前試料の測定を行う。COVID-19の流行の影響により研究機関の滞在日数が制限されることを想定されるため、溶存イオン分析機の自動測定機能を最大限に活用し、必要な滞在日数を最小限に留める。
令和元年度は、すでにある消耗品を使用し実験を進めたため、消耗品費を使用する必要性が無かったため残額が発生した。また、設備備品として実体顕微鏡を計上していたが、本年度中に購入品の選定が終わらなかった。令和2年度は上述の実体顕微鏡と消耗品の購入に次年度使用額を充てる.
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