研究課題/領域番号 |
19K14835
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤村 奈央 北海道大学, 工学研究院, 助教 (40732988)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 表面改質 / 疲労特性改善 / 組織の微細化 / マグネシウム合金 |
研究実績の概要 |
本研究では、金属表面に振動するインデンターを走査しながら低荷重の圧縮負荷を繰り返し与えることで表層組織を改質する新しい表面改質技術Scanning Cyclic Press: SCPを適用し疲労特性を改善するとともに、その改善効果に及ぼす加工パラメータの影響を検討し、材料の疲労特性改善のメカニズムを明らかにすることを目的としている。SCPでは、負荷の大きさやその繰返し数、付与する速さなどを加工パラメータとして設定することで改質の程度を制御できる。2020年度は、これらのうち、前年度に引き続き負荷繰返し数に着目してマグネシウム合金AZ31に対しSCPを施した。また、負荷の大きさなど他の加工パラメータを変化させた試験を行うために改質装置を改造した。具体的には以下のとおりである。
①表面改質試験:2019年度の成果において、AZ31にSCPを施すことでその疲労寿命や疲労強度は改善されたが、改善効果に及ぼす負荷繰返し数の影響については、疲労寿命において有意な差は認められなかった。このときの試験条件の内、最も少ない負荷繰返し数は、インデンターが改質範囲を1往復するのに相当した。そこで2020年度はさらに繰返し数を少なくし、改質範囲の一端から他端までを1度だけ走査する条件で改質を試みた。SCP後、改質部にインデンターを走査したことによる条痕が確認された。今後、この領域において分析を行い、表層組織や疲労特性への影響について調べる。
②装置の改造:SCPではインデンターで試験片に付与された荷重をロードセルで検知し、これをフィードバックすることで精密な荷重制御を行っている。しかし、荷重条件がロードセルの定格容量に対して数%と非常に小さい場合、フィードバック信号のS/N比が小さくなり荷重制御の精度に影響が出る。そこで、ロードセルを変更するなどして低荷重条件でのSCP処理にも対応できるようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において2020年度の目標は、前年度に引き続きSCP表面改質における負荷繰返し数の影響に着目し、これが金属材料の疲労特性および組織の変化に及ぼす影響を検討するとともに、負荷の大きさによる影響も調査することであった。この目標に対して、負荷繰返し数の影響の検討に関しては、前年度実施した試験よりも少ない条件でSCPを行うことができた。しかし、その後の分析や疲労試験については準備に時間を要している。一方、負荷の大きさによる影響の検討に関しては、小さな荷重条件でも安定して精度よく試験片に付与できるようにするため、実験に先立ち、改質装置の改造・調整を行った。その結果、これまでよりも安定して小さな荷重条件でも処理が行えるようになった。これによって2021年度は負荷の繰返し数に加えて大きさにも着目した検討が行えることから、全体として「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
改質装置の改造・調整ができたので、2021年度は負荷の大きさに着目してSCPを実施し、引き続き、マグネシウム合金AZ31の表面性状や組織等に及ぼす影響を検討する。また、2020年度に作製した繰返し数の影響に着目した試験片についても同様の検討を行う。具体的には、表面粗さ測定、断面組織観察などを行い、SCPによる材料の外観・表面性状や組織等の変化を調査する。断面組織の観察・分析には、所属する北海道大学の共同利用施設に設置されている機器・設備を利用し、主に走査型電子顕微鏡による観察やEBSD分析を行う。また、SCPを施した材料に対して軸荷重疲労試験を実施し、疲労特性の変化や破面形態の違いを調べる。そして、上述の測定・分析で得られたSCP後の材料の表面粗さや組織等の変化と疲労試験で得られた疲労特性・破壊形態を比較し、SCPによる材料の疲労特性改善効果を検討する。このとき加工パラメータと組織の変化、疲労特性の改善具合を総合し、組織を改質して疲労特性を効果的に改善する加工パラメータの設定方法について検討する。これらの検討を通して、疲労特性を改善する新たな表面改質技術としてのSCPの有効性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で得られた成果の一部を2020年に開催される国際会議で発表する予定であったが、新型コロナウイルスの影響でこの会議が当該年度内に開催されず、2021年に延期になった。そのため、旅費・参加費として計上していた分が使用できなかった。国内の講演会についても、多くが中止またはオンライン開催となったため、こちらも同費用の支出がほとんどなかった。また、実験関連についても、2020年度前半は同理由で分析機器や施設などの利用が一時中止されたため、施設利用料や実験に必要な物品の購入費としての支出が当初の予定よりも少なかった。一方、2021年度は、延期された国際会議がオンラインで開催されるので、当初の予定どおり、この参加費として使用する。また、この会議に参加するためのProceedings Paperや本研究で得られた成果の一部を投稿論文としてまとめる際の英文校正費用も必要である。さらに、改質装置の改造・調整が終わり、実験が再開できるので、試験片加工や改質装置における消耗品、改質処理後の各種分析などに使用することとした。以上の理由から、次年度使用額は実験関連の物品・消耗品の購入や、分析機器の利用料、国際会議参加とこれに伴う論文準備の費用として用いる予定である。
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