研究課題/領域番号 |
19K14836
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
栗田 大樹 東北大学, 工学研究科, 助教 (40643226)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 磁歪材料 / 複合材料 / 環境発電 / センサ材料 / スマート材料 / IoT / 材料設計 / マルチスケール材料力学 |
研究実績の概要 |
磁歪効果による材料の寸法変化はすでに報告されている一方で,磁歪特性を示す材料は曲げ弾性率の高い金属またはセラミクスであることから,2D状態から3D化するような大変形が従来の磁歪材料に期待できない.したがって,大変形可能な磁歪材料の創成には,曲げ弾性率が低く,弾性変形領域の広いマトリクスとの複合化が必須である.以上の背景から,本研究は日本の伝統芸術である「折り紙」の機構に着目し,磁場の印加によりひずみ・変形が生じる磁歪効果を利用した,可逆的に自己3D変形が可能な磁歪折り紙を創製するものである.具体的には,磁歪繊維を織り込んだ紙を作製し,その磁歪特性・変形を評価する.これまでに得られた成果を要約すると以下の通りである. 1. ホットプレスを利用して,セルロースナノファイバー(CNF)と磁歪Fe49Co49V2合金粉末から磁歪折り紙を作製することができた.そして,最適な作製条件(温度,ホットプレス時間)を明らかにした.また,CNFの量を制御することで,磁歪折り紙の厚さを制御可能であることを確認した.加えて,走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い,その微細構造に関する評価および考察を実施した. 2. 自作した磁歪特性評価装置を利用して,作製した磁歪折り紙の磁歪応答性,磁歪量を評価した.得られた実験結果から,磁歪折り紙が磁歪特性を示すことを確認したさらに,磁歪折り紙の引張強度を評価すると同時に,画像相関法を用いて磁歪折り紙の引張ひずみ計測と応力分布評価を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ホットプレスを利用して, CNFと磁歪Fe49Co49V2合金粉末から磁歪折り紙を作製することができた.そして,最適な作製条件(温度,ホットプレス時間)を見出した.CNFの量を制御することで,磁歪折り紙の厚さを制御可能であることを確認したが,磁歪特性の基礎データ取得時の実験誤差を考慮すると厚さ0.5 mmの磁歪折り紙を実験に用いることが望ましいことがわかった.SEM観察より,CNFがネットワーク状に磁歪Fe49Co49V2合金粉末を絡めており,紙としての形状維持に貢献していること,そしてその組織が均一であることを明らかにした.磁歪特性評価装置および汎用のひずみゲージを用いて,作製した磁歪折り紙の磁歪応答性,磁歪量を評価した.作製した磁歪折り紙の磁歪は負の値を示した.これは一般的な磁歪材料のもつ,正の磁歪特性と逆である.しかし,薄く,かつヤング率の低い材料のひずみを計測可能なひずみゲージが存在しないため,磁歪折り紙のひずみが正確に計測できていない可能性がある.したがって,現在までに,磁歪折り紙の磁歪特性の正負の断定にはさらなる実験が不可欠であるものの,磁歪折り紙が磁歪特性を示すことを確認した.また,磁歪折り紙の引張特性評価を試みた.上述したように,薄く,かつヤング率の低い材料のひずみを計測可能なひずみゲージが存在しない.そこで,磁歪折り紙の引張ひずみ評価に画像相関法の利用し,非接触でのひずみ評価を試みた.磁歪折り紙の引張強度が低く,つかみ部での応力集中による破壊が生じたため,磁歪折り紙の引張特性の評価には至らなかった.今後測定条件を精査し,タブを用意するなどの対策を講じる必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立した最適な作製条件で作製した厚さ0.5 mmの磁歪折り紙を用いて磁歪特性の基礎データを取得する.まず,磁歪折り紙の磁歪特性の正負を特定したいが,そのために不可欠な薄く,かつヤング率の低い材料のひずみを計測可能なひずみゲージが存在しない.そこで,厚さ0.5 mmの磁歪折り紙を複数層重ねて,数mm厚の磁歪折り紙ブロックを作製し,その磁歪特性評価を実施する.その際,ひずみゲージの貼付位置は磁歪折り紙ブロック内部と最表面の2パターンを検討する.この実験により,磁歪折り紙の磁歪特性の基礎データを求め,磁歪Fe49Co49V2合金バルク体との特性比較を行う.また,磁歪折り紙の機械特性として,磁歪応答により変形させることを考えると,引張特性よりも曲げ特性の方がより重要である.そこで,これまでの引張試験で得られた知見を活かして厚さ0.5 mmの磁歪折り紙の曲げ特性評価を試みる.具体的には,磁歪折り紙の曲げひずみを横方向からの画像相関法によって求め,その曲げ弾性率評価に用いる.以上より得られる基礎データを踏まえて,磁歪折り紙と紙を1:1の厚みになるように貼り合わせ,貼り合わせ材料の磁場印加時の変形評価を行う.変形量を設置面からの角度として,光学顕微鏡観察によって評価する.その後,変形量の妥当性評価およびさらなる変形量増大を目的に,有限要素解析を含めた材料力学的理論考察を実施する.その考察には,あらかじめ実験により取得した磁歪折り紙の磁歪特性,曲げ特性が材料物性として必須となる.
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