磁歪効果による材料の寸法変化はすでに報告されている一方で,磁歪特性を示す材料は曲げ弾性率の高い金属またはセラミクスであることから,2D状態から3D化するような大変形が従来の磁歪材料に期待できない.したがって,大変形可能な磁歪材料の創成には,曲げ弾性率が低く,弾性変形領域の広いマトリクスとの複合化が必須である.以上の背景から,本研究は日本の伝統芸術である「折り紙」の機構に着目し,磁場の印加によりひずみ・変形が生じる磁歪効果を利用した,可逆的に自己3D変形が可能な磁歪折り紙を創製するものである.具体的には,磁歪繊維を織り込んだ紙を作製し,その磁歪特性・変形を評価する.これまでに得られた成果を要約すると以下の通りである. 1. ホットプレスを利用して,セルロースナノファイバー(CNF)と磁歪Fe49Co49V2合金粉末から磁歪折り紙を作製することができた.そして,最適な作製条件(温度,ホットプレス時間)を明らかにした.また,CNFの量を制御することで,磁歪折り紙の厚さを制御可能であることを確認した.加えて,走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い,その微細構造に関する評価および考察を実施した. 2. 自作した磁歪特性評価装置を利用して,作製した磁歪折り紙の磁歪応答性,磁歪量を評価した.得られた実験結果から,磁歪折り紙が磁歪特性を示すことを確認した.さらに,磁歪折り紙の引張強度を評価すると同時に,画像相関法を用いて磁歪折り紙の引張ひずみ計測と応力分布評価を試みた. 3.作製した磁歪折り紙の磁歪特性は,計測箇所によってばらつきが大きいものの,最大で磁歪量が200 ppmに達した.この値は,磁歪Fe-Co合金の磁歪量である60 ppmと比較して3.3倍という大きな値である.しかし,その要因の特定には至らず,さらなる分析や評価が必要である.
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