研究1:分子動力学シミュレーションを用いて,3層カーボンナノチューブ(CNT)に層間架橋結合を導入したモデルを新たに作成して引張試験計算を実施した.3層CNTモデルにおいても,前年度に検討した2層CNTモデルと同様に層間架橋結合の導入により,最外層のみが破断する形態から全層破断の形態へ破断形態が変化することが認められた.外径が5.4nmの層間架橋結合を導入しない3層CNTモデルの実強度が108GPa程度であったのに対して,架橋密度の増大に伴い実強度は低下し,実強度が50-60GPa程度で3層全てが破断した.これに伴い公称強度は26GPaから39GPa程度へ増大した.またヤング率に関しても2倍程度増大した.これらの結果から,層間架橋結合の導入によって多層(本研究では3層)CNTは単層CNTに比べて高い公称強度を示すポテンシャルがあることがわかった.
研究2,3:エチレンとアルゴンの混合雰囲気下で熱処理を行い炭素原子をCNTに供給する浸炭熱処理および不活性雰囲気での高温熱処理によってCNTの構造制御を行い,X線回折,ラマン分光,TEMによる電子線回折の手法を用いて結晶構造評価を行った.浸炭熱処理および高温熱処理の両方を行ったCNTは,未処理のCNTおよび高温熱処理のみを行ったCNTに比べて結晶性が高いことが認められ,浸炭熱処理による炭素原子の供給の有用性が認められた.SEM内引張試験より得られた公称強度は10GPa程度を示しており,当初の目標値と同程度の公称強度を有するCNTの創製ができたと考えている.
|