研究課題/領域番号 |
19K14843
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
永島 壮 大阪大学, 工学研究科, 助教 (80800317)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 座屈 / 薄膜 / リンクル / 表面張力 / 変形 / ひずみ |
研究実績の概要 |
硬質薄膜と軟質基板から成る薄膜-基板系の座屈は,マイクロスケールの表面周期構造やナノスケールのチャネル構造の自律形成を誘発するため,機能性材料の創製に資する微細加工技術としての応用が注目されている。本研究は,応募者が世界に先駆けて発表した水滴の表面張力が駆動する波状構造(リンクル)から折畳構造(フォールド)への変形現象(以下「W-F遷移」と呼ぶ)に着目し,その機構解明と機能性材料創製への展開性実証を目的とする。令和元年度は,汎用的な薄膜-基板系と光学顕微鏡を用いて,W-F遷移の支配因子とその依存性,発生条件を明らかにすることを目的とした実験を遂行した。以下にその具体的な成果を記す。 ・研究計画調書に記載したポリジメチルシロキサン(PDMS)基板とその酸素プラズマ表面処理により生成する酸化ケイ素(SiOx)薄膜から成るSiOx-PDMS系を使用し,面内圧縮ひずみを付与してリンクルを作製した。リンクル表面に水滴を静置すると,特定の条件下で固液気三相境界線(コンタクトライン)近傍でW-F遷移が発生することを確認した。 ・当初は計画していなかった白金(Pt)薄膜とPDMS基板から成るPt-PDMS系を使用し,面内圧縮ひずみを付与してリンクルを作製した。リンクル表面に水滴を静置すると,特定の条件下で固液気三相境界線(コンタクトライン)近傍でW-F遷移が発生することを確認した。なお,Pt薄膜はイオンスパッタ法により形成した。Pt-PDMS系は,当初計画していたSiOx-PDMS系に対して(1)原子間力顕微鏡による膜厚測定が可能であり,(2)ナノレベルでの膜厚調整が可能であるという利点を有している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度の研究計画は「実験によるW-F遷移解析」と「数値シミュレーションによるW-F遷移解析」である。上述の通り,前者に関しては当初の計画以上に進展している。一方,後者に関しては現段階までに有益な結果を得られておらず,令和2年度に引き続き実施する予定である。以上より,進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
以下三点に取り組み,W-F遷移の機構を解明し,機能性材料創製への展開性を実証する。 ・実験によるW-F遷移解析:Pt-PDMS系を使用し,面内圧縮ひずみをはじめとした各種因子が,W-F遷移の発生およびフォールドの寸法変化に及ぼす影響を明らかにする。 ・数値シミュレーションによるW-F遷移解析:有限要素法により,薄膜-基板系の各種因子が,W-F遷移の発生およびフォールドの寸法変化に及ぼす影響を明らかにする。 ・機能性材料創製:上記により得られる知見が,機能性材料の創製に資することをプロトタイプの作製と評価により実証する。先行研究においてW-F遷移がナノチャネルの自立形成を誘発することを明らかにしている。そこで,本研究では,生体適合性ナノ構造体(例:金ナノ粒子や酸化グラフェンなど)を含有した水滴を使用して内壁がナノ構造体で被覆されたナノチャネルを創製し,その機能を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り,令和元年度に予定していた数値シミュレーションによるW-F遷移解析に遅延が生じており,研究経費を当初の計画通りに執行することができなかった。また,研究成果を報告する場として検討していた学会が中止となり,研究経費を当初の計画通りに執行することができなかった。令和2年度は,当該研究経費を合わせて使用し,遅延が生じている項目について速やかに実施するとともに,その他の項目についても計画に基づいて適切に実施し,研究成果を学会等で発表する予定である。
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