研究実績の概要 |
軟質基板の表面に密着した硬質薄膜に面内圧縮応力が作用すると,表面不安定現象が誘発され,面外変形に起因した凹凸パターンが自律形成する。凹凸パターンの寸法や形状は,薄膜と基板の弾性特性や寸法,応力状態などに応じて多様に変化することが知られている。本研究は,研究代表者が世界に先駆けて報告した,膜表面に接触した水滴が駆動する波状パターン「リンクル」から折畳パターン「フォールド」への変態現象(Nagashima et al., PNAS, 2017)に着目し,その制御機構の解明と機能材料創製技術への応用を目的とした。これまでに,ポリジメチルシロキサン(PDMS)基板とその酸素プラズマ表面処理により生成する酸化薄膜から成る薄膜基板構造体や,白金薄膜とPDMS基板から成る薄膜基板構造体を用いた実験を実施した。単軸圧縮状態あるいは二軸圧縮状態において,薄膜の厚さがリンクルやフォールドの寸法や形状に及ぼす影響を明らかにした。最終年度である令和4年度は,顕微鏡その場観察実験で明らかにした水滴近傍におけるリンクル・フォールド変態やリンクル消失に着目し,有限要素解析などにより当該現象に及ぼす接線方向力の影響を評価できる可能性を確認した。水滴の蒸発後もフォールドが維持される実験結果について検討を加え,有用な知見を獲得した。異分野の研究者たちとの議論から,本研究課題が対象とする水滴駆動リンクル・フォールド変態について,表面不安定現象を活用して細胞の収縮力を定量評価する技術(Harris et al., Science, 1980; Li et al., Commun. Biol., 2022)との関連性を見出し,本研究の発展課題を着想した。
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