衝撃を受けた際の頭部には、頚部を中心として回転運動が生じる。申請者はこれまでに、頭部を中心として生じる回転運動と頭部外傷の発生リスクの関係を明らかにしてきた。一方で、これまでの研究では、頭部のみをモデル化し多くの研究が行われてきている。さらに、頚部には筋肉が存在することから、実人体で生じる現象を十分に再現できているとは言い難い。そこで本研究では、頚部の筋緊張状態が回転運動における頭部外傷の発生リスクに及ぼす影響を明らかにすること目的とする。 本研究では、実験とシミュレーションの両者を用いて研究を実施した。実験では、頚部の筋活性度が頭部外傷発生リスクに及ぼす影響を明らかにするため、頚部の筋活性度を変化可能な頭頚部一体型実体モデルの開発に取り組んだ。初めに、人体形状に忠実な頭部モデルを剛体と定義し、頚部をバネおよびダンパで構築した頭頚部剛体運動モデルを作成した。同モデルに過去に行われた生体実験と同様の入力条件を設定し、同実験で得られた頭部挙動と一致するようなバネおよびダンパの特性ならびに取り付け角度などをパラメータスタディにより同定した。得られたパラメータを基に、CADモデルを作成し、実機(以下、頭頚部一体型実体モデルという)の開発を行った。開発した実機では、シミュレーションの段階では考慮されなかった摩擦などが影響し、頭部挙動が生体実験と一致しなかった。そこで、実験計画法を用いて頭頚部一体型実体モデルのチューニングを実施した。その結果、頚部の緊張・非緊張状態変化可能な生体実験のコリドーをほぼ満たす、頭頚部一体型実体モデルの開発に成功した。 シミュレーションでは、剛体解析ソフトウェア(MADYMO)を用いて、頚部の筋緊張状態をパラメータとして、様々な衝撃条件での解析を行った。その結果、低衝撃条件においては、頚部の筋緊張状態が頭部外傷発生リスクに影響を及ぼすことが明らかになった。
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