研究課題/領域番号 |
19K14851
|
研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
橋本 良介 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (80783216)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 非破壊検査 / 磁気光学効果 / 磁気光学イメージング / 磁性材料 / スピンコート |
研究実績の概要 |
本研究は,曲面を有する金属構造物表面からの欠陥による漏洩磁界を可視化するために磁性ガーネット薄膜センサを開発し,基礎特性を明らかにしたうえで,センサの設計指針を確立するものである.薄膜の成膜手法としてスピンコート法に着目して,あらかじめ結晶化熱処理を施した磁性ガーネット粒子をフレキシブル基板上に塗布することによって,自在に湾曲する磁性ガーネット薄膜の成膜手法を開発する. 昨年度から継続して本年度は,ビスマス置換型イットリウム鉄ガーネット材料の透光性改善を目的として,材料を鉄を含まないイットリウムアルミニウムガーネット材料に変更して特性を評価した.アルミニウムガーネットは常磁性材料であり,磁気光学材料としての性能指数は鉄ガーネットと比較して著しく劣るが,ビスマス置換型イットリウム鉄ガーネット材料の透光性が低い原因が粒子散乱ではなく,鉄による光吸収であることを明らかにするために鉄を全く含まない材料として採用した.その結果,ビスマス置換型イットリウム鉄ガーネット材料の光透過率がほぼ0%だったことに対して,イットリウムアルミニウムガーネット材料の光透過率は40%程度であり透光性の改善が認められた.従って,透光性低下の原因は粒子散乱による影響は小さく,鉄による光吸収が大きいことが認められ,イットリウムアルミニウムガーネット材料の有効性が示唆された. 得られた知見から,鉄ガーネットとアルミニウムガーネットの特性を併せ持つ材料を開発する目的でビスマス置換型イットリウム鉄ガーネット材料の鉄サイトにアルミニウムを置換した磁性ガーネット材料薄膜の試作を行った.試作した膜は,透光性を維持したまま磁気光学効果を示す両ガーネット材料の特性を併せ持つ材料であることが示された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,磁気光学イメージング用のフレキシブル磁性ガーネット薄膜を開発して,非破壊試験に応用するためのセンサの設計指針を確立することが目的である.本年度はセンサの性能指数の改善を目的として材料を変更し,フレキシブル磁性ガーネット薄膜の試作とセンサの性能指数を示す指標としての光透過率,ファラデー回転角の測定をはじめとした基礎特性の解析を目的に研究を進めた. 材料をイットリウムアルミニウムガーネットに変更し,基礎特性の測定を実施した.これまでに分光光度計による透過率スペクトルの測定,振動試料型磁力計による磁気特性の解析,走査型電子顕微鏡による表面・断面状態の観察およびX線回折装置による結晶性の評価などを行い,基礎特性を明らかにしてきた.特に,ビスマス置換型イットリウム鉄ガーネット粒子の透光性が著しく低かったことから透過率スペクトルの測定が課題となっていたが,材料の変更やスピンコートの条件探査により,透光性が認められる薄膜を形成することができた. 以上の結果により,ビスマス置換型イットリウム鉄ガーネットの透過率は粒子散乱などの影響は小さく,鉄による光吸収が大きな要因であることが明らかになった.これまでの進捗では光透過率が低いことが原因でファラデー回転角の観測ができておらず,結果として性能指数が評価できていなかった.そこで,ファラデー回転角の測定を目的として,鉄ガーネットとアルミニウムガーネットの特性を併せ持つ材料としてビスマス置換型イットリウム鉄ガーネットの鉄サイトをアルミニウムで置換した薄膜を試作して諸特性を測定した.その結果,本課題に着手して依頼,初めてファラデー回転角の測定に成功した. これらの結果から,当初予定されていた特性調査を概ね順調に実施することができたと判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度までにビスマス置換型イットリウム鉄ガーネットの鉄サイトをアルミニウムで置換した材料の磁気光学スペクトルの測定を行い,ある程度の透光性を維持したまま磁気光学効果を発現する薄膜を試作した.本年度は試作した薄膜をベースに,センサの性能指数を評価して,本課題の最終目的であるセンサの設計指針の確立を目指す計画である.センサの性能指数は,光透過率とファラデー回転角の大きさにより定義されており,両者はトレードオフの関係にあることから,透光性を保ちながら大きな磁気光学効果を発現する組成の磁性ガーネットを探査する必要がある. さらに,磁気光学イメージングでは磁界の方向に注意する必要がある.試作する膜の磁化特性は,一軸異方性を持たない等方的な特性であることが予想される.これは,膜の断面構造が連続的ではなく,球に近い形状をした粒子が分散して形成される不連続な膜であることで,形状磁気異方性の影響が小さくなることに起因する.欠陥からの漏洩磁界を可視化する目的においては,磁気光学イメージングの際に入射する光と平行方向となる膜面に対して垂直方向の磁化容易軸を有していることが望ましい.この課題については,イットリウムサイトへのビスマス置換を行うことにより,垂直磁気異方性を持たせることができると考えている. 研究最終年度として,ビスマスアルミニウム置換型イットリウム鉄ガーネット材料の性能指数を解析することによりセンサの設計指針を示す方針を立てる計画である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大による影響で参加予定であった学術会議の中止やリモート参加,他研究機関で予定していた分析に出張できなかったことにより,年度当初予定していた旅費の執行がなかったため.本年度は課題最終年度として研究成果の発表等に重点を置いて使用する計画である.
|