研究課題/領域番号 |
19K14852
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研究機関 | 和歌山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
田邉 大貴 和歌山工業高等専門学校, 知能機械工学科, 助教 (70792216)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | CFRP / 金属酸化物半導体 / 可逆的接合 / 熱分解 / 引張せん断強度 |
研究実績の概要 |
本研究は,金属酸化物半導体と炭素繊維の直接加熱を用いたCFRPの可逆的接合プロセスを提案し,接合層の接合・分離・再接合メカニズムの解明を目的としている.具体的には,接合層に各種炭素繊維と金属酸化物半導体粒子が含有された炭素繊維発熱体を配置し,炭素繊維発熱体への直接通電加熱による熱エネルギーを利用して,接合層の硬化促進と繊維強化を行う.また,酸化クロム等の金属酸化物半導体による触媒反応を利用して接合層の分解を高効率で局所的に行うことで,分離および再接合を可能とする高度な可逆的接合プロセスを探求することを目指している.本研究で提案する金属酸化物半導体と炭素繊維の直接加熱による可逆的接合プロセスにより修復や解体が容易になり,マルチマテリアル部材やCFRP部材の持続的な利用に貢献できる. 本年度は,金属酸化物半導体が接合挙動および接合層の分解挙動に及ぼす影響を調査するため,酸化クロム粉末を一方向炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板(熱硬化性CFRP)に塗布し,CO2レーザー加熱を用いて,金属酸化物半導体による母材樹脂の酸化・熱分解挙動を評価した.その結果,酸化クロム粉末を塗布してレーザー加熱処理を行った場合では,炭素繊維周囲のエポキシ樹脂が効率的に熱分解されることが電子顕微鏡観察および重量測定により判明した. また,引張せん断試験などの各種接合強度試験の結果,酸化クロム粉末を塗布してエポキシ樹脂を熱分解させた場合では,炭素繊維とエポキシ樹脂間での界面強度が向上していることが確認された. 本年度で得られた知見をさらに応用展開させ,次年度以降は酸化クロム粉末の接合層への複合化を行い,抵抗加熱や超音波加熱を用いて,熱硬化性CFRPや熱可塑性CFRPの接着または融着接合を行い,接合・分解挙動および接合強度を明らかにする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では,金属酸化物半導体の有無が炭素繊維周囲の樹脂の分解挙動に及ぼす影響と,超音波振動を用いた接合面の加熱挙動を調査した.その結果,以下のような知見が得られた. (1)酸化クロム粉末を一方向炭素繊維強化エポキシ樹脂積層板(熱硬化性CFRP)の表面に塗布し,最大出力40Wの卓上型CO2レーザー加熱装置を用いて,金属酸化物半導体による母材樹脂の酸化・熱分解挙動を評価した.その結果,酸化クロム粉末を塗布してCO2レーザー加熱処理を行った場合では,炭素繊維周囲のエポキシ樹脂が効率的に熱分解されることが電子顕微鏡観察と重量測定により明らかになった. (2)各種接合強度試験の結果,酸化クロム粉末を塗布してエポキシ樹脂を熱分解させた場合では,炭素繊維表面の残留樹脂が良好に除去されるため,炭素繊維と樹脂間での界面強度が向上していることが確認された.一方で,CO2レーザー加熱条件によっては,炭素繊維表面が著しく酸化し,やせ細るような現象が確認されたため,次年度では条件のさらなる適正化が必要である. (3)周波数40kHzの超音波発振器を用いて接合部の直接加熱を試みた結果,適正な負荷荷重条件下では,接合層を瞬時に加熱できることが分かった.また,接合層に炭素繊維を添加した場合では,炭素繊維がエネルギーダイレクタとして作用し,効率的に発熱するとともに,接合層が繊維強化されるため,引張せん断強度が向上することが確認された. これらに関連する研究の成果物として,投稿論文1報,国内外での学会発表5報以上の成果がある.
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今後の研究の推進方策 |
本年度で得られた知見をさらに応用展開させ,次年度以降は酸化クロム粉末の接合層への添加および複合化を行い,抵抗加熱や超音波加熱を用いて,熱硬化性CFRPや熱可塑性CFRPの接着または融着接合を実施する.また,熱可塑性エポキシ樹脂(フェノキシ樹脂)を接合層に適用し,熱硬化性CFRPどうしの接合のほかに,熱硬化性CFRPと熱可塑性CFRPの異種材接合における可逆的接合挙動を調査する. 一方で,CO2レーザー処理により,処理面の炭素繊維が酸化する現象が確認されたため,レーザー加熱条件の適正化や不活性雰囲気中での加熱処理を試みる.接合強度の評価については,シングルラップ引張せん断試験の他に,新たにNAS規格の引き剥がし試験を実施する.また,接合部の断面観察や電子顕微鏡を用いた微視的な観察を行いながら,接合・分解・再接合挙動を評価しモデル化を行う.各プロセスにおける接合強度を調査する. 上記で得られる成果を,積極的に論文投稿や学協会で発表していく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画の予定通り,研究は進んでいる. 次年度使用額が生じた理由としては,当初購入予定であった混練装置を本年度購入するよりも,翌年度に接合層を創製するための成形装置や材料費などの購入費として計上し,翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する方が,研究をより円滑に遂行できると判断したためである.当初購入予定であった物品については,他機関から拝借することが決定しているため,研究遂行には支障がない.また,翌年度の国内外での論文投稿費用および学会発表費用として用いる.
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