研究実績の概要 |
本研究で対象とする疲労特性に加え良好な凝固特性も併せ持つ合金設計を試みることで、施工性に優れた実用的な新材料開発を行った。既開発鋼であるFe-15Mn-10Cr-8Ni-4Siを始点とし、凝固特性に大きくかかわるCr/Ni比を系統的に変化させた合金群を試作した。その結果、Cr/Ni比をわずかに増加させることで凝固モードが変化し、高温割れ感受性が改善されることが明らかとなった。また、Cr/Ni比を微量増加させた新鋼材は既開発鋼と同等の優れた疲労特性を示し、耐疲労特性と溶接性を兼備する鋼材を開発することができた。一方、Cr/Ni比が過度に大きくなると疲労寿命が低下することが明らかとなった。 本研究課題の中核をなす塑性変形-き裂関係の観点からCr/Ni比の増加による寿命低下メカニズムを調査した。その結果、Cr/Ni比が大きい材料では塑性変形モードとして、γ→ε→α'2段マルテンサイト変態の頻度が高まることを見出した。γ→ε-マルテンサイト変態については疲労サイクル中の荷重反転により可逆的な変態を生じることにより疲労損傷の蓄積を抑制する。一方、α'-マルンテンサイトは逆変態を生じず、疲労サイクルにおける不可逆成分として働くことで疲労損傷の蓄積の原因となると結論した。 本研究成果は(F. Yoshinaka, T. Sawaguchi. S. Takamori, T. Nakamura, G. Arakane, Y. Inoue, S. Motomura, A. Kushibe, Development of ferrous-based weldable seismic damping alloy with prolonged plastic fatigue life, Scripta Mater, 197 (2021) 113815)として発表した。
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