研究実績の概要 |
優れた疲労特性を有するFe-15Mn10Cr-8Ni-4Siについて,変形組織のEBSD解析により,その良好な機械特性がひずみ誘起γ→εマルテンサイト変態(ε-TRIP),二段階γ→ε→α'マルテンサイト変態(two-stage TRIP),双方向γ/ε変態(B-TRIP)の3種類のTRIP効果の重畳によるものであることを示した。本研究成果は(Yoshinaka et al., Mater Sci Eng A, 833, 142583, 2022)で発表した。 試験温度を変化させることで塑性変形メカニズムを制御して疲労試験を行った。特に,温度の影響と材料成分の影響の双方を評価できるパラメータとしてGibbs自由エネルギー差ΔGにより疲労寿命を整理した。その結果,最も優れた疲労特性を得られる条件はB-TRIPが活発に生じる場合であり,そのような条件をΔG=0と記述できることを実証した。本結果については(Sawaguchi et al., Acta Mater, 220, 117267, 2021)で報告している。 また、き裂周囲あるいは疲労破面上におけるマルテンサイト量を測定した結果,き裂先端のひずみ場によりα'マルテンサイトが顕著に生じることが判明した。上述した通りα'マルテンサイトを生じるtwo-stage TRIPは引張特性の改善に寄与するものの,疲労耐久性の観点からはB-TRIPの割合を低下させることで悪影響であることを指摘した。また,このようなき裂周りにおける塑性変形・相転移の傾向が,き裂を含まない領域とは異なることから,疲労メカニズムの詳細を明らかにする上ではき裂近傍における組織解析が重要であることを提案した。 本研究成果はThe 7th International Conference on Advanced Steels(つくば市,5月)にて発表予定である。
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