研究課題/領域番号 |
19K14855
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研究機関 | 株式会社神戸工業試験場(生産本部技術開発部) |
研究代表者 |
岡崎 三郎 株式会社神戸工業試験場(生産本部技術開発部), 技術企画室, 研究員 (70780831)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Ni基合金 / 析出強化 / 水素 / 応力緩和 / クリープ / 活性化体積 / 有効応力 / 熱活性化パラメータ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,析出強化型Ni基超合金の水素誘起クリープ破壊機構を解明することである.初年度の最初の取り組みとして,供試材として溶体化処理を施したAlloy718の丸棒を購入し,その半数に対して2段時効処理を施した.溶体化材と時効材のそれぞれについて丸棒引張試験片を作成した.また,九州大学水素材料先端科学研究センターにて,100MPaと11MPaの2条件の水素ガス圧力で曝露試験を実施した. 溶体化材と時効材の引張試験片を用いて,低ひずみ速度引張試験を室温大気中で実施した.2段時効処理によって,引張強度の著しい向上が確認された.水素をチャージした試験片では,溶体化材と時効材の両材において延性の顕著な低下が確認された.延性の低下量は,水素ガス圧力の増加とともに増加した.未チャージ材の破面が全面ディンプルで覆われているのに対して,水素チャージ材ではファセット状の破面様相に変化していた. 溶体化材と時効材の引張試験片を用いて,繰返し応力緩和試験を室温大気中で実施した.低ひずみ速度引張試験の結果を参考にして,約3%のひずみ量で応力緩和量を測定した.応力緩和の繰り返し数は10回とし,1回あたりの保持時間については,溶体化材では60秒,時効材では600秒とした.溶体化材と時効材の両方で,水素の影響により応力緩和量が増大する傾向が確認された.また,活性化体積および有効応力に対する固溶水素の影響も確認されたことから,本合金における転位の粘性運動が水素により助長されることが明らかになった.時効材の活性化体積は溶体化材よりも10%程度大きく,本合金における析出物の寄与も確認できた. 予備検討として,温度600Kの条件下において繰返し応力緩和試験を室温大気中で実施した.ひずみ速度が比較的小さいことから顕著なセレーションが生じ,緩和応力に及ぼす水素の影響を評価することは難しかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素が材料中に侵入した際の破壊現象の全容を解明するには至っていないものの,転位運動に及ぼす固溶水素の影響を有効応力と内部応力に分離して定量評価する手法を確立することができた.時効材の活性化体積は溶体化材よりも10%程度大きかったことから,本合金における転位の粘性運動に対する整合析出物の寄与量が明確になった.初年度に実施した条件では,活性化体積や有効応力に及ぼす水素の影響は軽微であり,試験条件を再考する必要がある.しかしながら,本合金では顕著な応力緩和を引き起こす比較的大きなひずみ量に達する前に破壊が生じてしまうという手法上の問題点が浮き彫りになった.また,破壊を生じるひずみ量に達する直前においても有効応力に及ぼす水素の影響は比較的軽微であることから,水素による転位運動の変化が破壊のクライテリアにおいて支配的な影響因子ではないことが示唆された.また,比較的温度の高い条件では動的ひずみ時効が生じるため,有効応力に及ぼす水素の影響を評価することが困難であり,ひずみ速度などの試験条件を最適化する必要がある.高い温度域では,試験中に水素が脱離することが懸念されるため,より短時間での試験実施を望ましく,試験前後における水素量の変化などを行う必要がある. 以上のような進捗状況より,本研究はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に取り組んだAlloy718の室温大気中の試験では,破断ひずみに近い条件下においても,活性化体積や有効応力に及ぼす水素の影響が軽微であった.この実験結果より,室温レベルの転位運動に及ぼす水素の影響は小さいと考えられる.そこで,今後の推進方策として,より高い温度域での繰返し応力緩和試験を実施する.前年度の実績を考慮し,セレーションを起こさない比較的高いひずみ速度で目標のひずみ量に到達させることが重要である.そのため,各温度域におけるセレーションに着目した種々のひずみ速度における引張試験を実施することにより,繰返し応力緩和試験の条件の最適化を目指す.また,初年度は変位制御の試験を実施したが,今後はクリープなどの荷重制御の試験にも着手し,活性化体積や有効応力などの定量的な熱活性化パラメータに及ぼす水素の影響について検討を行う. 初年度に取り組んだ析出強化型のNi基超合では,破壊のクライテリアに対して転位運動の変化が小さく,他の影響因子が破壊機構を支配していると示唆された.今後は,一般的に耐熱合金として用いられる固溶強化型Ni基合金についても同様の試験を実施し,水素適合性という観点でNi基合金における最適な強化機構について模索する.
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