R2年度の実施計画の通り、有限要素多結晶モデルを用いた解析を実施した。まずは粒数の少ない(~10個程度の)板材試料について、単純なn乗硬化則かつ等方弾性体を仮定した解析を行った。R1年度に実験により取得した、引張試験片の結晶方位分布を入力とし、引張試験条件を境界条件として、応力ひずみ曲線のフィッティングにより材料定数を決定した。その結果得られた臨界分解せん断応力は、単結晶の物性値に近い値であった。また、変形初期の応力ひずみ曲線と、計算により得られたひずみ分布は実験結果と概ね一致した。以上から、単結晶の物性値を用いて多結晶の変形挙動を計算できる可能性が示唆された。しかしながら、粒数の多い試料についても同様の解析を行った結果、応力ひずみ曲線はパラメータフィッティングにより再現できたものの、粒数が少ない場合と同一の材料定数とはならず、ひずみ分布を再現できなかった。以上の内容について、2020年度塑性加工学会東北・北海道支部若手研究発表会にて報告した。活動しているすべり系について調べたところ、逐次累積法を用いて計算された活動すべり系と実験で見られたすべり線が整合していなかったことから、硬化則を単純な総和を用いるモデルから、最大林転位モデルへ変更して計算を行った。その結果、単純なモデルと同様に、応力ひずみ曲線はパラメータフィッティングにより再現できたものの、単一の材料定数とはならず、また、粒数の多い試料ではひずみ分布の再現まではできなかった。
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