従来自然界に存在しない熱伝導特性を示すものとして,ダイオード特性がある.この熱整流器の研究開発は,2000年代後半から理論的検討から始まり現在に至るまで,実験的検討を含め幾つかの報告がなされている.その中での課題として,理論値と実験で開発された材料での性能に大きな乖離があることが挙げられる.熱整流器の性能を表す指標として,高温側の物質における熱コンダクタンスと低温側の物質における熱コンダクタンスとの比で定義される熱整流係数がある.理論的には,この熱整流係数が10以上のものが存在するのに対して,実験値としては従来1.1を超える程度のものがほとんどであった.そこで,本課題では最適設計法の考え方に基づき,この熱整流性を持ったナノ構造設計案の創成を行う.ナノ構造内では,フーリエ則に従う等方的な熱の伝搬ではなく,弾道的に熱が伝播する.さらに,材料界面において温度が不連続になるような強い非線形性を持った物理現象となる.本申請課題では,ダイオード特性を持った革新的な熱伝導材料実現のための最適設計手法の構築を行う.本年度は,微視構造における熱伝導率最小化問題を対象とした形状最適設計法の構築を行なった.そして,この成果を計算力学の分野で国際的に著名な雑誌であるInternational Journal for Numerical Methods in Engineeringに投稿し,掲載された.その後,昨年からの引き続きの課題であるダイオード特性を実現するための最適設計法の構築に取り組んだ.上述した微視系熱伝導を対象とした構造最適設計法の構築および,ダイオード特性を実現するための定式化,設計感度の導出は完了した.現在,数値実装および数値計算を通し,提案手法の妥当性の検証を行なっている.
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