研究課題/領域番号 |
19K14873
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
神田 航希 東北大学, 工学研究科, 助教 (60803731)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 血漿タンパク質 / メカニカルシール / 低摩擦 / 吸着制御 |
研究実績の概要 |
補助人工心臓用メカニカルシールのしゅう動面において血漿タンパク質が薄く均一に吸着した血漿タンパク膜は低摩擦を発現することが知られている. 摩擦により形成される血漿タンパク膜の形成機構解明を最終目的とする本研究において,本年は炭化ケイ素製またゲル製のピンとディスクを用いて血漿タンパク質溶液中の摩擦試験を行い,以下を実験的に明らかにした. (1)ディスク上のしゅう動部に形成される血漿タンパク膜の形態を定量的に評価するための評価指標を提案した.これにより滑り速度と接触面圧の制御による血液中で低摩擦を発現しうる血漿タンパク膜の形成が可能となることを明らかにした. (2)血液中に含まれる血漿タンパク質の中でも特に高い濃度を有するフィブリノーゲンとアルブミンに着目し,血漿タンパク質の形成課程における相互作用の解明を試みた.その結果,基材上に吸着したフィブリノーゲンはアルブミンの吸着を促進することを明らかにした. (3)表面に長短パルスレーザーを照射した炭化ケイ素製ディスクを用い,レーザー照射が血漿タンパク質の静的吸着及び摩擦条件下における吸着に及ぼす影響を調査した. その結果,静的吸着条件下における血漿タンパク質の吸着促進効果を明らかにした.レーザー照射による表面の化学的変化が血漿タンパク膜の形成形態を支配することを明らかにした.また,レーザー処理によって予め豊富な静的吸着膜を形成することで,レーザー処理無しでは形成し得ない均一な血漿タンパク質膜を形成しうることが明らかとなった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・摩擦により形成される血漿タンパク膜の形成機構の解明 形成される血漿タンパク膜の形態は滑り速度と接触面圧により支配されることから,血漿タンパク質の変性が形成機構において重要な役割を果たしていることが示唆された. また,基板上に予吸着されたフィブリノーゲンはアルブミンの追加吸着を促進することが明らかにされた.これにより血漿タンパク質同士の相互作用も形成機構において重要な役割を果たしているといえる. ・血漿タンパク膜が有する潤滑機構の解明 アルブミンとフィブリノーゲンの混合比率が摩擦係数に及ぼす影響を調査した結果,ディスク表面へのフィブリノーゲンの積極的な供給が低摩擦化に有効であることを明らかにした. ・補助人工心臓用メカニカルシールの設計指針の提案,および実機における有効性の実証 未だ検討段階である.
|
今後の研究の推進方策 |
血漿タンパク膜による低摩擦実現の為の十分条件は未だ明らかで無い.低摩擦の実現を可能とするためには,摩擦条件下における血漿タンパク質の吸着機構の解明および低摩擦発現機構の解明が必須となる.本研究では基材表面の性状(表面粗さ,表面自由エネルギーおよび化学結合状態)が血漿タンパク質の静的吸着量に及ぼす影響を評価し,血漿タンパク質を制御しうる因子を明らかにする.また低摩擦を発現する血漿タンパク膜の解析を行い,膜厚,タンパク膜を構成する血漿タンパク質種の分布および変性割合を解析する.これにより血漿タンパク膜による低摩擦実現のための表面設計の指針を得る. また血漿タンパク質の吸着機構において重要な役割を担っていると考えられる血漿タンパク質同士の相互作用に着目し,フィブリノーゲンとアルブミンの相互作用を明らかにする.特にそれぞれの血漿タンパク質を予吸着させた表面を用い,タンパク質同士の吸着促進効果を明らかにする.
|
次年度使用額が生じた理由 |
学会が国内で開催され,交通費が想定を下回った為に次年度使用額が生じた. 消耗品の購入に使用する.
|