本研究の目的は、これまで困難であった高炭素クロム軸受鋼の転がり疲労におけるき裂進展駆動力を測定するため、転がり疲労き裂の停留を観察し、き裂進展下限界を観察することにある。本研究ではこれを実現するため、①二重硬化層を制御することではく離に至る主き裂の発生位置を限定、②二重硬化層を制御することでき裂進展方向を制限、③停留き裂の全数観察を行うことを通してこの観察を行うこととした。 初年度は様々な接触応力における転がり疲労き裂観察を行い、適切な停留条件を検討した。次年度には初年度の研究によって有望とされた、接触応力5.6GPaを試験条件として実験を行った。具体的には、高炭素クロム軸受鋼のシャフトに炉―高周波併用加熱法を用いて0.5mm程度の深さに最弱部ができるよう二重硬化層を制御した試験片を用いて、申請者らの研究室で開発した一点荷重転がり疲労試験機により転がり疲労試験を行った。その結果、非金属介在物から発生する様々な長さの転がり疲労き裂が観察された。これらのき裂の発生個所は幅広く分布したが、二重硬化層の最弱部ではき裂がより多くより長く成長することが確認できた。これは、発生したき裂の全数観察を通して転がり疲労き裂の発生、進展を制御できたことを意味する。 またき裂観察を通じて、高炭素クロム軸受鋼に含まれるクロム炭化物が転がり疲労き裂に影響を及ぼしている可能性が示唆された。このクロム炭化物の分布についてより詳しく観察することを目的として、画像処理によるクロム炭化物分布の観察法を開発した。 現在せん断応力場の解析及び停留き裂の選抜を行っており、最終的にき裂進展下限界を観察する予定である。また、せん断応力による塑性変形量の測定を目的とした磁場顕微鏡によるサンプルの測定を行うことができたため、今後も継続していく。
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