研究課題/領域番号 |
19K14876
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
劉 暁旭 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30837662)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | CVDダイヤモンド・コーティング切削工具 / フェムト秒レーザ / 刃先成形 / 表面改質 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は超短パルスレーザによりCVDダイヤモンド・コーティング工具の形状創製とより耐摩耗性、切削性能を向上させる表面改質を同時に単一の工程で実現できる新しい加工プロセスの開発すること。今年度はCVDダイヤモンドの機能性付与に必要なレーザ加工条件の探索を中心に研究し、以下の研究実績を達成した。 ①CVDD工具の刃先成形性と結晶構造変化に及ぼす超短パルスレーザ加工条件の影響 刃先鋭利さと加工面品質を両立することを目的として、従来のナノ秒レーザと新たにフェムト秒レーザを用いたPLG加工を刃先成形性と表面結晶構造の二つ軸で比較を行った。結果として、結晶構造に関してはフェムト秒レーザを用いると、ナノ秒レーザより加工面の変質を抑えることができる。一方で、刃先成形性としては、どちらも1μm以下のシャープなエッジを成形できたが、フェムト秒レーザを用いてデブリが加工面に荒くなってしまうため、加工面の粗さが僅か大きい。以上により、フェムト秒レーザを用いたPLG加工を実現できることが確認された。 ②超短パルスレーザからの表面改質のメカニズムの解明 レーザフルエンスを変化させて、ラマン分光により表面改質程度の違いとダイヤモンドやアモルファスカーボンなどの成分の変化についての調査を行った。結果として、表面改質効果はレーザフルエンスが大きいほど大きくなり、アブレーション閾値を超えて材料除去が生じても生じており、再表面のみならず内部でも生じていることが示唆される。同様なアモルファス構造が多くの炭素硬質被膜構造を持つDLC膜では、フェムト秒レーザ照射によりID/IGの増加はあるものの、CVDダイヤモンドで生じたダイヤモンド相の相対強度増加よりややグラファイト化が見出した。以上により、CVDダイヤモンドの表面改質メカニズムは核成長であることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超短パルスレーザによりCVDダイヤモンド工具の形状創製と表面改質を同時実現するため、今年度はフェムトレーザを用いたPLG加工による刃先成形の実現可能性確認と結晶性向上という表面改質のメカニズムの解明を行った。ナノ秒レーザとフェムト秒レーザを用いたPLG加工を刃先成形性と表面結晶構造の二つ軸で比較を行った結果は2019年4月の国際会議ICMDT2019で発表をし、special issueとして6月にJournal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturingに投稿し、現在もうアクセプトされた。また、超短パルスレーザからの表面改質のメカニズムの解明に関する内容では、指導されている学生が今年の5月のCLEO(光学分野トップレベルの国際会議)で口頭発表を行い、海外の研究者のご意見を参考した上で試験を追加し、年末までにDiamond and Related Materialsに投稿し、現在もアクセプトされた。しかし、既存装置の都合上でフェムト秒レーザのパラメータを独立に変更する事ができなったため(例えば、ナノ秒レーザは紫外線レーザ、フェムト秒は赤外線レーザ)、より徹底的にレーザパラメーターについて調べることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
まず研究室新規導入したパラメータを揃えることができるフェムト秒レーザを利用し、それぞれのパラメータの影響を徹底的に調べることを目指す。これから、オーバーラップ率(スポット径、走査速度、繰り返し周波数)とレーザフルエンス(レーザ出力、繰り返し周波数、スポット径)の二つの観点から高品質な刃先を得るために最適なフェムトレーザのPLG加工条件を調査しようとする。 続いては刃先成形と表面改質を両立するtwo-step手法を提案する。具体的には、先にCVDD工具刃先に高いフルエンスのフェムト秒レーザを用いたPLG加工を行い、次にPLGした加工面に低いフルエンスのレーザの照射加工を行うという二段階加工を同一光学系で行うことの実現を目指す。 さらに、硬さ試験や表面観察を行って膜内部応力分布を測定するとともに,有限要素法での逆解析と組み合わせることで,切削加工において引張が強く作用する領域に圧縮応力を付与すると、刃先先端付近比較的強いレーザ光を照査させてアブレーション加工により鋭利な刃先を創製することなど、被膜全体を同一条件で加工するのではなく,工具刃先の各部分に異なる効果を持つフェムトレーザを照射させて機能性付与を実現することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度には本研究のフェーズ①内容に対して、申請者が所属する研究室(名古屋工業大学 生産機器研究室)の現有設備(フェムト秒レーザ加工機,ナノ秒レーザ加工機,)を使用し,CVDダイヤモンド・コーティング工具のフェムト秒レーザによる刃先成形の実現可能性の確認と従来の短パルスレーザ刃先成形との比較を行った。また、共同研究の研究室のフェムト秒レーザを利用し、さらなるCVDダイヤモンドの結晶性向上の機能性付与のメカニズムの解明を行った。しかし、既存装置の都合上でフェムト秒レーザのパラメータを独立に変更する事ができなったため、よりレーザのパラメータの影響を徹底的に調べるため、研究室今年度年度末に新規導入したパラメータを揃えることができるフェムト秒レーザを利用する予定である。 したがって、今年度にはこの新しいレーザ加工機を構築するためには、必要に応じて(例えば、その波長調節可能など)光学部品を購入する予定である。これ以外に、有限要素法での逆解析と組み合わせることで、レーザ加工したCVDダイヤモンドの硬さ試験や表面観察を行って膜内部応力分布を測定するため、今年度は該当するシミュレーションソフトと研究室現有切削設備(超精密旋盤)に適するCVDダイヤモンドインサートを購入する予定である。
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