研究課題/領域番号 |
19K14879
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
徳田 祐樹 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第二部表面・化学技術グループ, 副主任研究員 (30633515)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | DLC膜 / 超低摩擦化現象 / 触媒作用 / オイルレス技術 |
研究実績の概要 |
一年時の研究において、触媒作用を有するジルコニア(ZrO2)とダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like carbon; DLC)膜を、エタノール蒸気を添加した窒素雰囲気中で摩擦することで生成される摩擦反応膜(トライボフィルム)について、炭素の同位体である13Cを用いたラベリング手法により、形成メカニズムの解明を試みた。その結果、摺動界面に形成されるトライボフィルムは、雰囲気中のエタノールを主原料とした炭化水素系物質であることが明らかとなった。したがって、摩擦により生じる外部からのエネルギー(摩擦熱など)によりZrO2の触媒作用が活性化し、摺動界面に供給されたエタノール蒸気が炭化水素系のトライボフィルムに変化したものと考えられる。ZrO2は「脱水反応」および「脱水素化反応」の二つの触媒作用を有するため、これらの作用によりエタノールがエチレンなどに変化し、重合反応が進むことで固体状物質が形成されたと推察される。また一方で、DLC膜に対してアルミナ(Al2O3)を摩擦したケースでは、超低摩擦化現象は発現せず、炭化水素系のトライボフィルムの形成も確認されなかった。Al2O3はZrO2と異なり、「脱水反応」の触媒作用のみを有することで知られている。したがって、摺動界面におけるエタノール由来のトライボフィルムの形成では、「脱水素化反応」という触媒作用が重要な役割を果たしていると推察される。以上の結果より、超低摩擦化現象の発生にはZrO2の触媒作用が重要であり、この反応を制御・促進することでトライボフィルムの形成を活性化できるものと考えられる。また同時に、ZrO2の触媒作用の観点から反応式を推察することで、トライボフィルムの形成メカニズムが解明できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭素の同位体である13Cを用いたラベリング手法により、DLC膜の超低摩擦化現象を引き起こすトライボフィルムの形成メカニズムについて、順調に調査が進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度以降は主に「①トライボフィルムの形成手法の検討」、および「②トライボフィルムの形成メカニズムの検討」を行う。トライボフィルムの形成手法の検討では、摩擦を伴わずにZrO2表面にエタノール蒸気由来の反応生成物を形成する方法を検討する。一例としては、エタノール雰囲気中でZrO2を加熱処理する方法や、エタノール蒸気を原料とした大気圧プラズマにより反応膜を生成する方法などを模索する。トライボフィルムの形成メカニズムの検討では、ZrO2の摩擦相手材をDLC膜以外の材料(セラミックスやカーボン系材料、合金材料など)とし、従来の超低摩擦化現象が発現するかどうかを検証する。同時に、触媒作用がZrO2と異なる材料として、アルミナ(脱水反応のみ)やニッケル(脱水素化反応のみ)を使用し、反応膜の形成の有無や構造解析を行い、トライボフィルムの形成過程を明確化する。 以上の取り組みにより、トライボフィルムの形成プロセスを明確化するとともに、トライボフィルム自体を製造する技術の開発の足掛かりを模索し、当該技術の実用化を目指して研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一年時の研究結果より、ZrO2の触媒作用によってエタノール蒸気由来の炭化水素系トライボフィルムが形成されることが判明した。一方で、その触媒過程において「脱水素反応」と「脱水反応」がどのように関与しているかについて検討するため、摩擦相手材を変更した摩擦試験を行い、トライボフィルムの形成の有無を調査する必要が生じた。試験に使用する摩擦相手材を再度検討する必要が生じたため、資金計画の変更が必要となり、次年度使用額が生じた。
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