一年次では、触媒作用を有するZrO2と非晶質炭素薄膜(DLC膜)を、エタノール蒸気を添加した窒素雰囲気中で摩擦することで発生する超低摩擦化現象について、この現象を引き起こす摩擦反応膜の構造解析を行った。雰囲気中に炭素同位体(13C)で構成されたエタノールを導入して摩擦し、反応膜に対する質量分析を用いたラベリング解析により形成メカニズムの解明に取り組んだ。研究結果より、摩擦反応膜は雰囲気中のエタノールを主原料とした炭化水素系物質であることが明らかとなり、ZrO2の「脱水反応」と「脱水素化反応」の二つの触媒作用により無定形な炭化水素物質が形成されたと推察される。 二年次では、ZrO2の摩擦相手材をDLC膜以外の材料(セラミックスやカーボン系材料、合金材料など)とし、従来の超低摩擦化現象が発現するかどうかを検証することで、摩擦反応膜の形成メカニズムを検討した。研究結果より、エタノール添加窒素雰囲気中でZrO2同士を摩擦したところ、超低摩擦化現象は発生しなかったものの、摺動界面にポリエチレンが形成されていることが判明した。したがって、エタノールに対するZrO2の脱水反応によりエチレンが形成され、エチレンに対する脱水素反応および重合反応によりポリエチレンが形成された可能性が推察される、そして、ポリエチレンの構造変化が進むことで、最終的に超低摩擦化現象を発現する無定形炭素の摩擦反応膜が形成されたと推察される。 三年次では、半透明な石英プレートにDLC膜を形成し、背面からカメラ観察を行いながら摩擦試験を行うことで、摺動界面をその場観察可能なIn-situ試験装置を開発した。試験観察の結果より、エタノールを添加した窒素雰囲気化で摩擦試験を開始した直後に干渉色の摩擦反応膜の成長が確認され、摩擦反応膜の形成過程の経時的な観察に成功した。以上の研究により、当該研究の超低摩擦化現象の発生メカニズムの解明に資する成果が得られた。
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