研究課題
流体工学の課題の中で,乱流場のマルチスケールな秩序構造の生成や散逸の相互機構は,未解明な点が多く残されている.申請者のこれまでの研究で,時空間的に大スケール変動に重畳する小スケールの渦の,特徴的な振る舞いが観察されるが,どのような理論で説明されるか詳細はわかっていない.そこで本研究では,マルチスケール変動の非線形効果を考慮した,非定常/非一様流れの大域的安定性解析を実施,乱流の秩序構造の生成機構とそれらの相互作用の理論的解明を目指す.申請者は特に,従来手法による直交モードの安定性だけでなく非直交モードによるエネルギー過渡増幅にも焦点をあて,実際の渦生成との関連を調査する.申請者はこれまでに,非線形効果としてレイノルズ応力の渦粘性近似を取り入れた解析を実施,チャネル流では壁近傍の小さな粘性スケール構造だけでなく大規模構造の生成も過渡増幅が重要な役割を果たしている可能性を示した.今後,より洗練された時空間変動の非線形効果を安定性解析に取り入れることで,先駆けた知見の取得に挑戦する.当該年度はまず,非定常流れを扱う安定性解析を行うために,線形ナビエ・ストークス方程式の非直交システムの過渡成長を捉えるため時間発展する擾乱について固有値解析を実施する準備を行った.申請者がこれまでに開発した計算プログラムに,さらに計算負荷の小さい固有値算出方法としてArnoldi Iterationを実装し,基本流の空間分布に対応するため,擾乱の支配方程式にスパン方向と流れ方向の勾配の項を追加する修正を施した. 今後は,より小さなスケール変動の非線形効果として,申請者が独自に検討を進めてきた時空間平均・位相変動・擾乱の三つのスケール分解によるレイノルズ応力を考慮し,相関式を拡張して,大スケール変動パラメータに依存する新しいレイノルズ応力の線形近似を提案し,非定常/非一様流れの安定性解析に取り入れる.
2: おおむね順調に進展している
当該年度は,安定性解析のための計算プログラムの準備を実施し,概ね順調に進展している.
今後は,これまで構築した安定性解析プログラムにより,流れの基本流に適用,実際の流れ場との比較を行う.非線形効果であるレイノルズ応力の線形近似によるモデルがうまく合わない場合は,従来の渦粘性近似の形を用いて,時空間分布する位相変動の速度勾配から算出し与える方法を試す.スパン方向壁振動制御においては,非定常流れ場のレイノルズ応力を壁面振動のパラメータから推定している関係式をもとにして与える.これにより非直交モードの過渡増幅率に与えるレイノルズ応力の影響を明らかにし,チャネル全体の乱流エネルギーの大幅低減をもたらす機構を解明する.高レイノルズ数チャネルにおいては,短時間で発達する小スケールのストリークに由来する変動の非線形効果を取り入れ,直接安定性解析を実施する.それにより高レイノルズ数域で観察されるチャネル幅スケール大規模構造の生成機構を説明する.亜臨界レイノルズ数チャネルでは,乱流スポット周り空間分布する基本流と非線形効果を取り入れた大域的安定性解析を実施し,斜め方向モードの成長率を算出,斜め状に発達する乱流大規模構造の生成機構を,非直交モードの過渡成長と関連づける.
3月に予定していた研究打ち合わせのための海外渡航の予定が,コロナ感染症予防のため中止になり,次年度使用額が生じた.今後,可能な状況になり次第,計画をたて海外渡航に使用したい.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件) 備考 (1件)
Journal of Fluid Science and Technology (JFST)
巻: accepted ページ: -
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In: Orlu R., Talamelli A., Peinke J., Oberlack M. (eds) Progress in Turbulence VIII. iTi 2018. Springer Proceedings in Physics
巻: 226 ページ: 9~13
10.1007/978-3-030-22196-6_2
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19KK0373/