本研究では,チョウがどのように速い前進速度と巧みな姿勢制御を実現しているか,という問題を解明することを目的として,実際のチョウの飛翔を動画で撮影し,翼を前後に振る運動や前後2枚の翼の動作の遅れを始めとした特徴的な動作を抽出する(トップダウン的アプローチ).さらにその動作をモデルに搭載し,流体力学の観点からその効果を考察する(ボトムアップ的アプローチ). 2021年度は,上記の目的のために,(1)前進飛翔時の計測結果の数値モデルへの反映,(2)超小型飛翔体への応用の検討を行った.(1)においては,前年度に構築した飛び立ち時の計測結果の数値モデルへの反映方法に基づいて,前進飛翔時の数値モデルを構築した.周期的な前進飛翔をさせるために,計測結果をフーリエ級数で近似することで,翼と胴体の動きを周期関数で表し,それを数値モデルに取り入れることで,モデルの周期的な前進飛翔を可能にした.胴体の回転運動を与えて,並進運動を計算した結果,モデルは実際の蝶と同様の階段状の渦構造を作りながら,前進・上昇飛翔する様子が再現できた.しかし,回転運動まで計算すると,モデルはすぐに姿勢を崩して,墜落してしまうことが分かった.これは,並行して調べていた単純化したモデルでも見られたことであり,腹部の振りによる姿勢制御が有効であることも分かっているものの,実際の蝶がどのように姿勢制御を行っているかは,未解決な問題である.(2)においては,導電性高分子人工筋肉や形状記憶合金型人工筋肉を用いた,蝶を模した羽ばたき機構の試作を行った.その結果,どちらの人工筋肉においても,モータを使った同様の機構に比べて,軽量で動作時の振動も小さいものとなったが,羽ばたき振幅,羽ばたきによる発生力の面で大きく劣るものとなった.これは人工筋肉の材料的な制限であり,現時点では,既存の人工筋肉を用いた蝶の羽ばたき機構は難しいと考えられる.
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