研究課題/領域番号 |
19K14887
|
研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
川村 洋介 豊橋技術科学大学, 未来ビークルシティリサーチセンター, 特定助教 (80783505)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | エジェクタ / 気液二相流 / 炭酸ガス / 冷凍サイクル / 衝撃波 |
研究実績の概要 |
初年度は,実験で用いる装置の改良及び実験用の試作エジェクタの設計・製作を実施した. 装置の改良については,「圧力損失の低減」と「冷媒温度制御性の向上」を実施した.まず,前者については,特に,蒸発器入口における圧縮機油の残留対策を実施した.本研究で用いている蒸発器では,冷媒が下方から流入し,上方部から流出する形であることから,圧縮機後に分離器にて分離しきれなかった圧縮機油が溜まり,冷媒流路を狭めている可能性があった.そこで,蒸発器流入前に蒸発器を迂回するようにキャピラリを接続し,圧力差のみで圧縮機入口に圧縮機油のみが戻れるように改良を行い,結果,膨張弁サイクルでの運転時に蒸発器前後にて200kPa程度存在した圧力損失が50kPa程度まで低減できることが確認された.後者については,従前まで手絞り弁にて水流量を調整することで冷媒温度を制御していたが,本手法においては実験の都度水温が異なり,実験の再現性が低下してしまうため,貯水タンクを1つに集約し,そこから各熱交換器にポンプにて送水し,また,新たにチラーをタンクに接続し,タンク水温を一定に保つ方法を試した.結果として,前述の方法に比べて,タンクの水温変動を10分間で5℃程度あったものが1℃程度に抑えることに成功した. 実験で用いる積層型二相流エジェクタの試作に先立ち,まず,サイクルの作動点を決めるために,理想的な膨張弁サイクルを仮定し,高温側35℃,低温側5℃の条件でCOPが最大となる入口圧力を求めたところ,高圧8.68MPaにてCOPが最大となることがわかった.これをもとにして,エジェクタ内部をポテンシャル流れと仮定し,ノズルからの高速二相流と吸引部からの気体単相流は混合部にて損失無く運動量交換されるとして計算を行い,エジェクタの基本形状を決め,製作を行った.実験については2年目で実施予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
進捗状況における評価については以下の理由がある. まず,第一に実験を共に担当するはずだった人員(学生)の確保が行えなかったこと,そして,研究代表者の他機関への異動が挙げられる.これは,研究代表者が所属している研究室(講座)の2019年度末での閉設が大きく影響している.これに伴い,研究室へは学生が多く配属されず,当該研究に避ける人員を確保することができなかった.また,研究代表者自身も他機関に移るための活動に多くの時間を割いていたため,当初の研究計画に対し,大きく遅れることとなった.加えて,研究室の閉設に伴い,利用していた実験室等もすべて機関側に返還する必要があり,人員不足より実験装置の解体や後片付け等を実施する時間を多く設ける必要があったことから,実験自体を実施することができなかった. 次に,試作エジェクタの加工の難易度が挙げられる.今回設計した積層型二相流エジェクタにおいて,衝撃波を定在させるために取り付ける楔(スパイク)部が非常に細く,ワイヤー放電加工を行う際に熱応力によっていずれかの方向に曲がってしまうことが生じた.結果的に,スパイク部の両辺を少しずつ削ることで対応したが,これを製作するだけで1か月以上も時間を要してしまった.また,流路内の圧力測定のための静圧孔を加工するうえでも,その口径の小ささや点数の多さから機械加工の時間を多くとることができなかった. 以上の理由により,計画に大幅な遅れが生じたと考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の遅れを取り戻すために,以下のように研究計画を変更することとする. 研究代表者の機関異動に伴い,実験装置の再構築から始めることとなる.異動先の実験環境等の整備も不十分であることから,その部分に経費の多くを割くことになると考えらえる.また,人員についても,研究代表者が行ってきた研究分野について触れてきていない可能性が大いにあることから,実験装置の構築及び実験については当初よりも時間をかけて実施することになると考えられる.これに伴い,当初の予定では,実験から得た結果をもとに,改良型のエジェクタを試作することとしていたが,これを取りやめ,現在製作できている3通りの試作エジェクタの評価実験を比較することに注力することとする.また,実験条件については,サイクルの動作点以外にも条件を変更して実験する予定だったが,理論計算で行った動作点での評価実験のみとすることとする.なお,試作エジェクタにおける最大昇圧量を求めるために,背圧変化については実施する予定である.ただし,実験計画がさらに遅れる事態が後期までに発生した場合には,当該研究期間の1年延長を申請する予定である. 数値解析については,計算環境自体も再構築する必要があるため,多くの時間を費やすことが難しいと考えられる.そこで,数値計算については,エジェクタ全体にわたるモデリングではなく,本研究において注目している混合部・ディフューザ部に限定し,まずは,理想的な流れが解けるようにすることを念頭に置いて制作を行う.同時に,一次元における壁面摩擦等を考慮した計算についても進めておき,最低限,実験結果と比較できる計算結果を提示する予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況の遅れが生じた理由と同様に,研究代表者の機関異動が生じたために,研究計画を大幅に見直す必要があった.特に,実験装置等は解体する必要があったため,次年度装置を再構築する際に研究経費が必要になると考え,急遽,初年度での使用額を抑え,次年度に回すこととした. また,同時期に実施していた共同研究も当該研究と同一の実験装置を利用していたことから,装置の改良に必要となる費用の多くを共同研究経費から支出していたこともあり,当該研究経費の初年度使用額が少なかったと考えられる.
|