研究課題/領域番号 |
19K14888
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡林 希依 大阪大学, 工学研究科, 助教 (40774162)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キャビテーション / 乱流 / 翼 / Large-eddy simulation / 数値流体力学 |
研究実績の概要 |
本研究では,様々な形状とスケールを持つキャビテーション乱流場の諸現象を統一的に表す非定常解析手法を確立することを目的として,翼周りのキャビテーション乱流を対象としたLarge-eddy simulation(LES)の高度化を行っている.本年度は以下の成果をあげている. 1.特に解析が困難とされている高迎角における翼周りのキャビテーション乱流のLESを行った.LESによって大規模な横渦をシミュレートし,均質流体モデルを用いたにも関わらず,シートキャビティを迂回する流れも再現された.その結果,他の乱流モデルによる解析と比較すると,揚力特性の再現性が向上した.しかしながら,非定常性が特に強い揚力ブレークダウン点付近では,最小キャビティ長さを保てないことが原因で,LESを使用していてもやはり揚力の再現性に改善の余地が残った.したがって,揚力特性の再現性向上のキーとなるシートキャビティを迂回する流線を十分にシミュレートするには,LESで横渦を再現するだけでは不足であり,シートキャビティ気膜の界面を捕獲する必要があることが示唆された. 2.流線に基づいてシートキャビティの前部分を気膜として表現し,シートキャビティの残りの部分とクラウドキャビティを通常の均質流体モデルで表現する,ハイブリッドなモデルを開発した.シートキャビティ気膜の界面を捕獲するモデルは存在するが,本モデルはリエントラントジェットやそれに伴うクラウドキャビティの放出,スーパーキャビテーション状態も統一的に表すため,均質流体モデルを併用したところに特徴がある.本モデルによって,均質流体モデルのみに比べ,ブレークダウン点付近で揚力特性の再現性が改善された. 3.キャビティと渦粘性近似されたサブグリッドスケール乱流渦の相互作用を考慮したモデルをLESのプログラムに実装し,その効果を確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトは主に1.界面捕獲・均質流体ハイブリッドモデルの開発とシートキャビティを迂回する流線の本質の解明,2.乱流要素渦を考慮したキャビテーションLESモデルの開発,3.マルチスケールのキャビテーション乱流を統一的に表す手法の検証,の三課題とその周辺からなる.課題3については三ヵ年のプロジェクト期間の最終年度に課題1と2の成果を統合することによって達成する見込みである.課題1と2については,それぞれ目標におおむね到達したと考えられるため,三ヵ年のプロジェクト期間の2年目が終わった時点での進展として,おおむね順調と判断した.その理由を以下に示す. (課題1)シートキャビティを迂回する流線の本質は解明した.界面捕獲・均質流体ハイブリッドモデルはすでに検証が完了しているが,保存性に課題が残っている.したがって,目標の8割程度に到達したと判断した. (課題2)乱流要素渦を考慮したキャビテーションLESモデルは,「乱流渦芯からの初生」と「キャビティが乱流渦に及ぼす影響」を考慮した,キャビテーション⇔乱流要素渦の相互作用を表すtwo-wayのモデルとすることが最終目標である.本年度はtwo-wayのモデルの実装と,現状のモデルから得られる解として妥当であることの確認が完了した.モデルパラメータの設定を含めた検証と,通常のLESとの比較を課題として残すのみである.したがって,目標の8割程度に到達したと判断した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,キャビテーション流れのLESの高度化に関する以下の研究を同時並行して推進する. 1.本年度に開発した,流線に基づいた界面捕獲・均質流体ハイブリッドモデルは,流線と壁面の間に気相を埋め込むため,保存性に課題が残っている.これを改善するために,シートキャビティの一部と翼面を含めてリメッシュして,シートキャビティ界面には滑り壁,飽和蒸気圧,ボイド率100%を境界条件として課す.シートキャビティ界面の内外の圧力差によって界面の垂直方向速度を決定し,成長・収縮を表現する.シートキャビティの残りの部分とその他のキャビティ形態は均質流体モデルで補うという手法とする. 2.剥離せん断層が生じ,乱流渦キャビテーションの影響が顕著となる迎角20度の翼周りキャビテーション流れについて,モデルパラメータを含めた検証を行う.また,通常のLESとの比較をキャビテーション数に関するパラメトリックスタディにより行う. 3.以上の手法を組み合わせることで,マルチスケールのキャビテーション現象を条件に合わせてモデルを切り替えることなく統一的に表すことができることを示す.翼周りの流れでは飽和蒸気圧と迎角の組み合わせでスーパーキャビテーション,部分シートキャビテーションの付着/振動,せん断による乱流渦キャビテーションなどのモードを取るが,これらすべてが本研究の手法のみで統一的に表すことができ,かつ揚抗力などの再現性も改善することを示す.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により学会が中止あるいはオンライン開催となって出張が不要となり,旅費や学会参加費として使用できなくなった予算が執行残として生じた.今年度から必要となったデータ解析用PCの費用として使用する予定である.
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