水素と酸素を燃料とし、走行時に水しか排出しない固体高分子形燃料電池は次世代の移動体用電源として期待されている。しかし、その普及にあたっては、高電流密度化を実現し、電池の出力密度を向上する必要がある。このためには、ミリスケールのセパレータ、マイクロスケールの空隙を有するガス拡散層を含む大規模水輸送解析を実現し、水が滞留しづらい電池構造を明らかにすることで、触媒層への効率的な酸素の供給を実現する必要がある。 2019年度では大規模水輸送解析を実現するため格子ボルツマン法を用いた解析モデルを構築した。しかし、安定的に解析するためには比較的小さなタイムステップを用いる必要があり、計算負荷が大きかった。そこで、2020年度では大きなタイムステップにおいて安定的に解析を行うためbalanced-forceアルゴリズムを適用した格子ボルツマン法を構築した。また、計算精度が必要な場所には細かい格子を、精度が必要のない場所は粗い格子を用いるマルチブロック法を組み込むことで解析の計算負荷を低減した。これにより、これまでスーパーコンピュータが使用されてきた、ミリスケールのセパレータ、マイクロスケールの空隙を有するガス拡散層を含む大規模水輸送解析を容易に実現できるようになった。 この解析モデルを用いて、多孔質セパレータが水輸送に与える影響を調べた結果、親水性の多孔質セパレータによりガス拡散層内部の水が吸い上げられるため、多孔質セパレータではリブ・チャネルからなる従来のセパレータと比べガス拡散層に滞留する水が低減することが明らかになった。この結果を実験的に確かめるため多孔質セパレータを用いた電池の性能を調べた結果、多孔質セパレータを用いた電池は、ガス拡散層での水の滞留が抑制されたため、従来のセパレータと比べ性能が向上することが明らかになった。
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