研究課題/領域番号 |
19K14907
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岸本 将史 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (10757636)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 固体酸化物形燃料電池 / 相転換法 / 異方性多孔質 / ガス拡散 |
研究実績の概要 |
初年度はまず,相転換法を用いた燃料極支持体の作製を行った.高分子,有機溶剤,および燃料極材料を混合したペーストを薄膜状にしたのちに浸水させることで相転換を発生させ,燃料極材料が閉じ込められた高分子膜を作製した.それを高温で焼成し,高分子成分を焼き飛ばすことで燃料極支持体を作製した.浸水時における有機溶剤の水への混合速度が膜構造に影響をおよぼすと考えられるため,混合が比較的早いN-Methyl-2-Pyrrolidone (NMP),および比較的遅いDimethyl sulfoxide (DMSO)の2種類を検討した.高分子にはPolyether sulfone (PESf)を用いた.作製した燃料極支持体の構造を電子顕微鏡を用いて観察したところ,NMPを用いた場合は支持体内部に直径が300ミクロン程度にまで成長した涙型のマイクロチャネルが見られた一方,DMSOを用いた場合は直線的なマイクロチャネルが形成され,最大直径も30ミクロン程度であった.NMPを用いたものは巨大な空隙の影響で強度が不十分であったため,本研究ではDMSOを用いることとした. 次に燃料極支持体の厚み方向に垂直な断面の電子顕微鏡画像を複数取得し,支持体厚み方向の微構造パラメータの分布を調べた.浸水面近傍で生じたマイクロチャネルは,膜の下部に向かって成長するにつれて直径が徐々に大きくなるとともに,数密度は減少することがわかった.マイクロチャネルによる空隙と,スポンジ状多孔質内の空隙を合わせた空隙率を合わせると60%程度であり,従来の燃料極多孔質よりも高い値を達成できた. 作製した燃料極支持体のガス輸送特性を調べるために,透過率を実験的に測定した.支持体上下に圧力差を与えた際の透過流束を計測し,ダルシー則に基づいて定量化した.その結果,従来の一様な空隙構造を持つ燃料極支持体よりも高い透過率を有することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
相転換法によって形成される非対称燃料極支持体構造を決定する因子をある程度絞り込み,SOFCの燃料極支持体として望ましい構造を得るための材料の混合比を特定することができた.また,詳細な微構造観察を実施することで,支持体厚み方向の微構造パラメータの分布という極めて貴重な情報を得ることができた.時間のかかる作業であったため,スポンジ状多孔質部分の3次元微構造観察は2年度目に持ち越すことになったが,全体として見ると想定以上のデータを得ることができた. 作製した燃料極支持体が優れたガス輸送特性を有することは,微構造情報からある程度推測できたが,そこでとどまることなく実験的な検証も行い,透過率というパラメータを実測することでより説得力のあるデータを得ることができた.構築した実験装置は,他のガス輸送特性,例えばガス拡散係数の測定にも流用可能であるため,今後さらなるデータの蓄積が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
初年度において作製した,非対称構造を持つ燃料極支持体の上に電解質と空気極を作製し,SOFCセルを作製する.電解質にはスピンコート法,空気極にはスクリーンプリント法を用いることを想定している.本研究で作製する燃料極支持体は,従来のものと比べると表面粗さや焼成時の収縮率が異なることが予想されるため,必要に応じて作製パラメータの調整を行う. 次に,得られたセルの電気化学測定を行うことで,本研究で提案する作製手法がSOFCの性能向上に資することを実証する.具体的には,燃料極支持体内のガス拡散の影響が現れやすい低水素濃度もしくは高電流密度における電気化学測定を行うことで,ガス輸送特性の向上によりセル性能が向上できることを示す.また,非対称構造を持つ燃料極支持体のガス輸送特性をより直接的に表す指標として有効ガス拡散係数を実測し,従来の一様な空隙構造を持つ多孔質よりも高い有効ガス拡散係数を有することを確認する. さらに,初年度に定量化した非対称膜の微構造情報を基にして構造モデルを構築し,すでに有しているSOFCセル数値解析モデルに組み込むことで,マイクロチャネルによるガス輸送特性の向上や,セルの電気化学性能の向上についてより定量的な考察を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に実施した非対称膜構造の微構造観察においては,マイクロチャネル構造の観察に注力したため,スポンジ状多孔質部分の3次元観察を2年度目に後ろ倒しした.そのため,観察サンプル作製などに必要な消耗品類を購入しなかった.繰り越した分を用いて2年度目において実施する際に必要なものを購入する予定である. 2年度目に請求する分については,当初計画通りの使用を予定している.具体的には,設備備品費として数値シミュレーション用の計算機に50万円程度,消耗品として切断研磨用消耗品,SOFCセル作製用試薬,電気化学測定用のセラミックス消耗品,燃料・酸化剤ガス,配管材料,白金線およびメッシュに総額80万円程度を想定している.
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