最終年度はまず,相転換法により作製した非対称空隙構造を持つ燃料極支持体について,透過率の測定を行った.測定装置に保持して機密を保っても割れが生じないように,厚みを増した支持体を作製して用いた.流量を制御した気体を透過させたところ,生じる圧力差は従来の均質多孔質体と比べて極めて小さく,燃料極支持体が高い透過率を有することが示された.また,昨年に引き続き非対称空隙構造を持つ燃料極支持体をもとにしてSOFCセルを作製した.その際,スラリーのコーティング条件や焼成条件を調整した.これにより,セルの電気化学性能の再現性が高まった.電気化学測定では,昨年度よりも幅広い条件で行い,特に低温および低水素濃度条件において非対称空隙構造によるガス拡散性向上の効果が顕著に現れることを明らかにした. 燃料極支持体のガス拡散性の向上により,セルのガス輸送抵抗が大幅に低下したため,運転時の燃料利用率を高くすることが可能になる.しかし,高燃料利用率運転時には,燃料ガスは低水素濃度(=高水蒸気濃度)になるが,そのような条件における燃料極の電気化学活性が明らかでない.そこで,様々な燃料濃度における燃料極の電気化学活性を,電気化学インピーダンス法などを用いて実験的に取得した.これにより,広範な燃料組成における燃料極活性のデータが得られた.また,得られたデータのモデル化を試みた.素反応モデルを用いる方法と,機械学習的手法を用いる方法の二種類を検討し,実験で得られた電極活性を再現することに成功した.さらに,発電だけでなく水電解を行う際の電極活性を向上するため,燃料極に対する触媒含浸を検討した.酸化物イオン伝導性を持つGDC(ガドリニア添加セリア)のナノ粒子を燃料極内に導入することで反応機構が変化し,電解モードにおける電気化学活性が向上することがわかった.これはSOFCをリバーシブルに運転する際に有用な知見である.
|