研究課題/領域番号 |
19K14919
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
上道 茜 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (10734155)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 燃焼振動 / 音響インピーダンス / 発振周波数 / 音響ネットワークモデル |
研究実績の概要 |
火力発電用ガスタービン燃焼器では,強烈な圧力変動を伴う燃焼振動が問題となっている。申請者はこれまでに行った燃焼振動実験から,水素混焼の場合に発振周波数のシフトが起きることを発見した。都市ガス専焼の場合には約350 Hzの発振が観察され,これは実験に用いた燃焼器の固有振動数と一致する。しかしながら,水素混焼の場合には200 Hzおよび400 Hz付近での発振が観察された。約200 Hzの振動を一次モードと考えた場合,これは燃焼器の上流端よりもさらに上流の配管も考慮しなければ得られない周波数である。そこで,燃料による燃焼特性の変化が音響的境界条件に影響をもたらすという仮説に基づき,燃焼振動現象の加振源である燃焼特性をモデルに組み込み,燃焼振動現象をよく表現することができるモデルを構築することを目的とする。燃焼現象は,本来非常に複雑ものであるが,音響的特性に影響をもたらす支配的な性質は,燃焼器内の温度分布に集約されていると考えた。この考えのもと,燃料組成によって発振周波数のシフトが起きる燃焼振動現象をよく再現することができるモデルの構築を試みる。当該年度は以下の項目について研究を実施した。 1. 模擬燃焼器を対象とした音響インピーダンス温度補正手法の構築:音響インピーダンスを音響的境界条件とした音響ネットワークモデルに対して,軸方向一次元代表温度分布を組み込んで発振周波数の予測手法構築を図った。 2. 温度分布をもうけたRijke管を用いた音響インピーダンス実測:音響インピーダンスが管内の温度分布によって変化することを検証するためにRijke管の試作を行い,直管のみから成る装置を用いて予備実験を行った。 これらのことから,音響ネットワークモデルを用いた発振周波数の予測は,領域の温度分布によって大きく影響を受ける。したがって,代表温度分布作成方法を確立する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 模擬燃焼器を対象とした音響インピーダンス温度補正手法の構築 音響インピーダンスを音響的境界条件とした音響ネットワークモデルに対して,軸方向一次元代表温度分布を組み込んで発振周波数の予測手法構築を図った。これまでに構築した音響ネットワークモデルでは,未燃と既燃の2領域のみに分け,未燃領域ではCFDシミュレーションから得られた上流端温度,既燃領域では燃焼器内の平均温度を与えて音響インピーダンスを修正していた。今回,燃焼器を軸方向の微小領域に分割した音響ネットワークモデルに改良を行った。微小領域に対してそれぞれ温度を考慮することができ,温度分布は実験およびCFDシミュレーションから得たものを用いた。実験では,模擬燃焼器に熱電対を挿入し,温度分布計測を行った。CFDシミュレーションは,汎用熱流体シミュレーションソフトであるANSYS Fluentを用いてRANSによる3次元定常シミュレーションから得たものを用いた。これらのデータから,複数の軸方向1次元代表温度分布を作成し,発振周波数の候補を算出した。その結果,今回試みた方法では,発振周波数の候補は,実験で得られた発振周波数を予測することができず,手法に改善が必要であることがわかった。 2. 温度分布をもうけたRijke管を用いた音響インピーダンス実測 音響インピーダンスが管内の温度分布によって変化することを検証するためにRijke管の試作を行い,直管のみから成る装置を用いて予備実験を行った。その結果,ヒータによる発熱によって温度分布を与えたRijke管では,与える温度が大きいほど音響インピーダンスの値が高周波数側にシフトすることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
1. 模擬燃焼器を対象とした音響インピーダンス温度補正手法の構築(続き) 先に述べた燃焼器の音響ネットワークモデルに一次元代表温度分布を導入した場合,得られた発振周波数の候補は実験で観測された発振周波数とは異なっていた。そこで,一次元代表温度分布をいくつかの要素に分けて,作成方法を精査して,発振周波数の候補との関係を検討する。温度勾配を有する位置(火炎面に相当),温度勾配の大きさ(火炎面の厚みに相当),到達温度(最高火炎温度に相当)などを変化させた一次元温度分布を与えるものとする。また,ここで得られた知見を組み込んで,代表一次元温度分布の作成方法の確立に取り組む。なお,当初,2019年後半以降に予定していた発熱変換係数のモデリングについては,現在の手法ではこのパラメータを使わなくても音響ネットワークモデルで発振周波数の候補が算出できることがわかったため,現段階では着手していない。しかしながら,現在の発振周波数候補の算定方法では,発振周波数の候補の予測が成功していないことから,モデルに組み込むことを検討する。 2. 温度分布をもうけたRijke管を用いた音響インピーダンス実測 前年度までに試作を行ったRijke管について,1に述べた代表一次元温度分布の議論を反映させ,種々の温度分布を設定できるように装置を改良し,実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者は2019年3月に所属機関が変わり,それに伴って研究環境が変わったため,研究計画遂行にあたって必要な設備の優先順位が変わり,Rijke管用計測機器一式(NI, cDAQ-9178他)を導入した。申請者は,2020年4月に再び所属機関が変わったため,実験室での実験装置および配管のレイアウトや架台など更新のための部品材料費,加工費用として使用する計画である。
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