研究課題/領域番号 |
19K14925
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
久野 翔太郎 成蹊大学, 理工学部, 助教 (00825945)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 振動音響連成解析 / 固有値解析 / 有限要素法 / 集中質量系 / アクティブ制御 |
研究実績の概要 |
本研究では,構造物と連成した閉空間を質量-ばね-減衰からなる集中系モデルで定式化しモデルベースの能動制御を行うことで,閉空間全体の騒音を低減することを目的としている.これを実現するために,(1)制御対象の連成系の効率的な解析モデルの構築,(2)モデルに基づいた効果的な制御系の構築,を検討している. 本年度は,前年度に得られた結果を基調として(1),(2)双方の研究を並行して行った. (1)制御対象の連成系の効率的な解析モデルの構築に関して:前年度の研究によって,提案手法による長方形要素の3次元音響空間-平板連成解析モデルを開発した.本年度は,当該モデルの有効性を確認するために,提案手法と従来のFEMによる連成解析手法の固有値計算効率の比較を行うプログラムを作成した.結果から,提案手法は係数行列が疎性の高い対称行列となるため,大規模な音響空間と構造物の連成系に対して従来手法よりも効率的な固有値解析を行うことができると分かった.また,前年度の研究では三角形のような汎用性の高い要素形状への拡張が難しいという課題があったが,本年度の調査によって円筒形や任意の四辺形要素へは拡張できる可能性があることが分かった. (2)モデルに基づいた効果的な制御系の構築に関して:前年度には,基本的な1次元系を対象としてモデルベースの制御系の構築および基本的な適応制御プログラムの構築を行った.本年度は,まずモデルベースの制御系と適応制御手法の組み合わせ方法について検討を行った.具体的には,モデルを用いて作成した状態推定器と適応制御手法を組み合わせることで,適応的に連成系全体の能動騒音制御を行うことを考えた.しかしながら,状態推定器と適応制御手法を組み合わせた場合,制御器の安定性の問題や計算負荷の問題が発生した.そのため,前段階として適応制御を組み合わせない場合についてフィードバック制御を行い,制御効果や制御限界を再検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定では,(1)制御対象の連成系の効率的な解析モデルの改良:(要素形状の一般化),(2)モデルに基づいた効果的な制御系の構築:(2次元連成系を対象とした制御系の構築,制御効果向上のための数値的・実験的な検討)を行う予定であった. (1)では,前年度に構築した長方形要素形状の3次元連成系モデルの有効性を確認するために,プログラムの作成や結果の検証を行った.結果的に,提案手法は従来手法よりも振動音響連成系の固有値解析を効率的に行えることを示した.さらに,円筒形や球形などの座標軸に平行な方向にのみ変位を持つ要素においても本手法を適用できることを発見した.一方で,三角形などの汎用性の高い要素への拡張が課題として残っていた.三角形要素については依然厳しい見通しであるが,本年度の調査によって任意の四辺形要素であればピオラ変換を利用することで提案手法を適用できる可能性があることを発見した.(2)では,前年度検討した1次元系の理論を拡張して2次元系に適用する予定であった.しかしながら,モデルベース制御手法と適応制御との組み合わせにおいて問題が発生するなど,制御手法自体を修正する必要が出た.この点を考慮して,本研究の制御理論構築における空間の次元の拡張は保留し,まず1次元系に対する制御効果を詳細に検証することを優先する判断を行った.そのため,効果的な制御手法に関する検討内容は当初の予定から変更されている. 以上により,(1)に関しては当初の想定内の結果が得られているものの,(2)に関して研究の遅延があるため「やや遅れている」と判断した.また,2年間を通じてCOVID-19の影響による研究進捗や報告の遅れがあるため,研究期間を1年間延長し,次年度の活動で研究結果の総括や成果の報告を補完することにした.
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今後の研究の推進方策 |
(1)制御対象の連成系の効率的な解析モデルの構築,(2)モデルに基づいた効果的な制御系の構築,に関してそれぞれ次の課題に対応する. (1):長方形,円筒形,球形といったある程度規則正しい形状であれば本手法が適用可能であり,本手法は大規模な音響振動連成系の効率的な解析手法として有効であることも示せた.一方で,三角形形状など汎用的な要素形状への本手法の適用が課題であった.この点に関して,ピオラ変換を利用することで任意の四辺形要素へ本手法を適用できる可能性を発見したため,今後はこの点の検証を行う. (2):引き続き1次元系連成系に対して検討した基礎的な制御手法を拡張していく.当初の予定であった2次元系の検証は一旦保留し,1次元系に対して有効な制御手法をまとめることを優先する.制御手法に関しては当初の予定通り,モードグループを利用した方法について検討を行うが,前年度に問題の発生したモデルベース制御と適応制御との組み合わせについても引き続き検討を行う.また,理論の有効性を数値的に確認できた制御手法については,適宜実証実験を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:制御系の設計に関する研究方針を変更したことに伴って,制御系の有効性検証のための実験装置を再設計する必要が生じたため.実験装置の再設計後に真に必要なセンサ(1/4インチマイクもしくはレーザー変位計)を選定し,次年度に改めて購入することにした.また,COVID-19の影響により学会の中止や論文査読の遅延もあったため,学会発表や論文投稿に関わる費用も次年度に持ち越した 使用計画:スピーカや構造物の動特性測定のためのレーザー変位計購入費と学会参加・論文投稿関連費に用いる予定である.
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