研究課題/領域番号 |
19K14929
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
矢田部 浩平 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (20801278)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光学的音響計測 |
研究実績の概要 |
従来のマイクロホンなどの方法では原理的に計測できない音を,レーザ干渉計を用いて非接触に計測する光学的音響計測の研究を進めている.音が光に与える影響は微弱なので,光学的音響計測には高度なシステムが要求され,従来は限定的な音場のみが計測対象であった.そこで,計測システムやデータ解析手法に関する検討を行い,光学的に測定可能な音響現象の種類を増やしてきた.同時に,現実の応用問題に適用するにあたり,これまで取り組んだ計測法自体の改善に加え,計測されたデータに対する信号処理も考える必要がある.本研究では,これまで発展させてきた光学的音響測定手法を現実の工学的問題に適用することを目指し,光学干渉計によって測定された音響データに対する信号処理について検討を行っている. 今年度は,音場の復元に対して仮定を導入することで,単一の計測結果からの三次元音場の復元を試みた.従来の干渉計測では,測定光の光路上で線積分された情報が測定されるので,音場の三次元情報をそのまま得ることはできない.そこで,複数の方向から測定を行うことで,三次元的な情報を取得する方法が検討されている.それを実現するには,多数の測定系によるシステムを構築するか,測定系を回転させるか,音場を回転させれば良い.しかし,そのような回転を伴う測定は実施の難易度が高く,またそもそも再現可能な音場でないと計測できないという課題がある.本研究では,音場がそもそも軸対称であるという仮定を置くことで,回転が不要な問題設定で定式化し,音場復元の逆問題を解くことで,三次元情報の復元を試みた.復元を行う信号処理手法を開発し,実測データに適用することで,仮定が妥当と考えられる音場は復元できることを示した.ただし,復元に必要な情報が少ない周波数帯域の音場の復元には難しさが残ることもわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では,これまで一般の音場を対象とした処理を考えていたが,計測コストや処理の難易度が上がるという課題があった.そこで,対象とする音場をあえて限定することで,それらのコストや難易度を低減することを試みた.その結果,一般の音場に適用することはできないとはいえ,特定の音場に対しては実用的な処理を実現することができた.計測対象に仮定を置いている分,適用範囲が限定されているのは課題ではあるので,今後はどこまで仮定を広げても同様の処理が可能か,仮定を広げた場合はどのように処理をするのが妥当か,などを検討する必要がある. ただし,今年度は新型コロナウイルスの影響で,授業準備など,研究とは関係のない業務が激増し,ほとんど研究に時間を割くことができなかった.前年度から継続していた作業に関してはある程度続けることはできたが,状況が大きく変わったために,体制を立て直す必要が生じている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により,一般の現象を対象とせずに,特定の音場のみを対象とすることで,計測や信号処理の難易度を大幅に下げることが可能であることを示せた.ただし,対象の範囲を狭めることで実用性が損なわれるので,どの範囲まで仮定を強めるとどの程度実用性を保ちつつ処理を容易にできるかを見極める必要がある.そのような音場の性質と処理の関係について考える必要があるので,分類した上で検討を行う. また,前年度の研究で見られた細かな現象に対する位相分布の乱れについても,引き続き検討を行う必要がある.画素ごとの位相シフト量と画素位置のミスマッチが影響していて,並列位相シフト干渉法自体の課題なので,基礎的な信号処理に立ち返り,画素位置の整合性を考慮した信号処理を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスに関する対応のために,研究を従来通り進めることが困難であったため.翌年度分と合わせ,計算機の導入を行う予定である.
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