研究実績の概要 |
本研究の目的は, 何らかの作業においてフェーズ毎に変化する人間関節インピーダンスを推定し, キネマティックな情報と関連付けて作業を記述することである. これに対して, 2019年度は摂動入力・計測デバイスの製作と動作確認, データ収集が計画されていた. 本年度の実績はデバイスの設計評価, 手関節応用の検証, 新たな推定手法の提案の3項目である. まず, 弾性体の飛び移り座屈現象を利用する摂動入力デバイスのさらなる小型化を実現し, その性能の定量評価を実施した. 摂動入力が瞬発力で行われるという点を考慮し, 運動量を指標に選び評価を行った. ここで得られた成果は国際会議IFAC World Congress 2020での発表が決定している. また, その成果の一部は国内会議 自動制御連合講演会2019で発表済みである. 次に, 手関節でのデバイスおよび推定手法の検証実験を実施した. 手関節の3自由度のうち, 捩り方向を除く2自由度で実験を行い, インピーダンスの推定が問題なく行えることを確認した. この際, 計測デバイスについては既製品で対応可能であることも同時に確認した. ここで得た成果は国際会議IEEE EMBC2019にて発表済みである. 最後に, 新規手法として, 力センサレスでの関節インピーダンス推定法を提案した. これは摂動入力が瞬発力で行われるという特殊性に注目した手法である. 本手法によると, 関節インピーダンス推定時に必要な物理量は関節角度と角速度のみとなる. 力の情報はインピーダンスを定義する本質的なものであるため, これを不要とする新手法は非常に高い独創性を持つといえる. 実用面でも, 今後の研究計画において中核を担うものである. ここで得た成果は国内会議 ロボティクスシンポジア2020にて発表済みであり, 同時投稿制度により欧文誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作業中の人間関節インピーダンス推定に向け, 2019年度は各種デバイスの製作と動作確認, データ収集が計画されていた. 飛び移り座屈現象を利用するデバイスは再設計を経て更なる小型軽量化を実現した. また, デバイスの摂動入力が瞬発力で行われることを考慮し, そのアクチュエーション性能を単に力で評価するのではなく, 運動量を指標として選択し, 手や足など対象とする各部位の質量に対する設計仕様を得た. デバイスの検証実験として, 手関節のインピーダンス推定を実施した. 手首の3自由度のうち, 捩り方向を除く2自由度でテストを行い, それぞれの軸方向でインピーダンス値を推定した. 得られたそれぞれの推定値は, 関連研究で示されている傾向と矛盾のないものであった. これにより, 飛び移り座屈現象を利用して, 手関節インピーダンスの推定を実現できることを確認した. 一方で, デバイス再設計時のアクチュエーション能力の評価結果に基づくと, 筋活動を伴う足関節に対しては出力不足気味であることも確認された. 飛び移り座屈機構の再設計と並行して, ダイレクトドライブ型の足関節専用摂動入力デバイスを開発した. このデバイスは, 飛び移り座屈機構とは利用可能な推定アルゴリズムが異なるため, 補助的なものとして製作を進めている. このデバイスについては, 摂動入力の動作確認までが完了している. 上記の通り, 本年度内に主として計画されていた項目はすべて達成している. それに加えて, 力センサレスでのインピーダンス推定手法を新たに考案し, パラメータ既知の直動バネマスダンパ系や実際の人関節を対象とする検証実験まで終えている. 以上より, 本研究計画の進捗状況としては, おおむね順調といえる.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は作業データの収集を行い, 摂動への応答を得る方法とタスクの記述方法を検討する計画である. 研究計画自体に変更は無いが, 具体的な実施内容は新しく提案された力センサレス推定手法を考慮する形に微調整する. 力センサレス化により, 物理量計測の際に接触を伴わない手段も選べるようになった. したがって, 作業中の関節の運動や摂動への応答について, 予定されているゴニオメータのような装着型に加えて, ビジョンベースの非接触な手段も利用してデータ収集を実施する. 計測は, デバイス無しの場合と, 装着のみの場合, 摂動を入力する場合の3通りとし, いずれも複数回の試行を実施する. 作業中では筋活動による運動と摂動に対する応答が混在するため, ここで収集したデータを利用して, 摂動に対する応答を取り出す方法を検討する. その方針として, 摂動を入力した場合の関節の運動データと, 摂動無しとして収集したデータとの差分を取ることを計画している. その際, 作業フェーズでの正規化や複数セットによる平均化などの手段によって, 対象とする作業の別なく摂動への応答を取り出す手法として検討する. 作業中の人関節はフェーズに応じてその柔らかさを連続的に推移させている. しかし, これを逐次的に推定することはほぼ不可能である. したがって, 正規化された作業フェーズ上で離散的にインピーダンス推定を行い, その後, 連続化する方針を取る. 本研究では得られた成果のソフトロボット制御技術への応用を見込んでおり, その意味では人関節の角度や角速度, 柔らかさの推移に対して, 何らかの時間関数でフィッティングすることが1つの目標となる. その一方で, 柔らかさは環境との相互作用において必然的にエネルギーのやり取りを生じるという観点より, 関節で行われているエネルギーフローの調節についても考察を進める.
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