研究課題/領域番号 |
19K14939
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
齊藤 裕一 筑波大学, システム情報系, 助教 (90770470)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 潜在リスク / 潜在ハザード / 推奨速度 / ドライバモデル / リスク予測 / 予防安全 / アクティブセイフティ |
研究実績の概要 |
本研究課題では,不確実環境下での運転知能の高度化を目的とし,走行環境の文脈とドライバ行動の状態に基づく潜在危険度の推定を内蔵した予見的運転支援技術の基盤研究を実施する.2020年度は,2019年度に引き続き,危険度推定モデルの基盤技術の構築を進め,主に危険度推定に基づく走行速度の適正化技術を開発した.実施事項を以下に記載する.
2020年度では,(1) ニアミスデータベースから歩行者またはサイクリストが死角から横断を開始するイベントに対する全データ抽出の作業を終え,また (2) ドライバの回避操作があと何秒遅れていたら衝突が避けられなかったかを意味するリスク指標(セイフティクッション)を用いて,抽出データを低リスクと高リスクの2グループに分割した.ここで,低リスクイベントデータは,「直面する走行環境の文脈(道路形状,歩道形状,交差点形状,横断歩道有無,時刻,天候など)に応じて,ドライバが適切なセイフティクッションを調整できた結果と看做した.これに基づいて,(3) 低リスクイベントデータにおいて観測された走行速度と走行環境の文脈情報を用いた線形回帰分析から,セイフティクッションを適切に調整できた走行速度に寄与しうる説明変数(走行環境の文脈情報)を特定した.さらに,(4) 推奨速度を出力する予測モデル(ドライバモデル)を構築し,そのモデルの汎化性能を検証した.つぎに,高リスクイベントデータを用いて,(5) 推奨速度モデルによる安全性向上の効果を評価した.次年度に,規範行動へのガンダンスを目的とした間接型(状況理解と行為選択の支援であり,制御介入を含まない)のドライバ支援と直接型(制御介入を含む)のドライバ支援を検討するため,ステアリングコントローラ(senso-wheel)を購入した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 走行環境文脈の理解技術においては,歩行者またはサイクリストが死角から横断を開始するイベントに対する全データ抽出の作業を終え,(i) セイフティクッションのリスク指標を提案し,(ii) ニアミスの形成過程を定式化し,(iii) そのニアミスに寄与しうる走行環境の文脈情報を特定し,(iv) 高リスクと低リスクを分類する自動識別モデルを構築した. (2) 通常からの逸脱を検知する技術の構築においては,従来技術の衝突速度フィールドとセイフティクッションフィールドを統合し,潜在リスクフィールドを提案した. (3) ニアミス事象の形成過程の実態把握においては,「歩行者,またはサイクリストの不安全行動は,走行環境の文脈の影響を受ける」という仮説を設定し,道路環境因子のダミーデータを用いて,飛び出し対象(潜在ハザード)を特定するロジスティック回帰モデルを構築した. (4) 走行速度の適正化技術においては,低リスクイベントデータにおいて観測された走行速度と走行環境の文脈情報を用いた線形回帰分析から,セイフティクッションを適切に調整できた走行速度に寄与しうる説明変数(走行環境の文脈情報)を特定し,さらに,推奨速度を出力する予測モデル(ドライバモデル)を構築した.
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今後の研究の推進方策 |
(1) 危険予測知識の内蔵モデルの評価検証を実施する.2020年度に構築したドライバモデルを用いて,高リスクイベントデータに対する推奨速度を算出し,推奨速度に対するパネル評価を実施する.具体的には,(a) ニアミスデータベースを用いて,「つぎに何が起こりうるか」を予測するハザード予測テストを新たに開発し,(b) 経験の浅い初心者ドライバと経験豊富な熟練ドライバを対象とした比較実験を実施し,(c) 推奨速度に対するドライバ受容度を解析する.当初の予定では,マルチエージェント交通流ソフトウェア PTV Vissimを用いて,仮想環境に多様な走行環境を模擬し,安全性向上の評価を網羅的に実施する予定であったが,推奨速度とドライバ受容性の両立を図るうえで,「ニアミスデータベースを用いたハザード予測テストの開発」が重要であると判断し,当初計画から変更している.
(2) 危険予測知識の内蔵モデルを搭載する予防安全システムを開発する.規範行動へのガンダンスを目的とした間接型(状況理解と行為選択の支援であり,制御介入を含まない)のドライバ支援と直接型(制御介入を含む)のドライバ支援を検討する.具体的には,(a) 間接型と直接型のHMIを構築し,(b) 人を含む系におけるドライビングシミュレータ実験を実施し,安全性と受容性の両観点における推奨速度を算出する技術(ドライバモデル)の有効性を評価する.
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