研究課題/領域番号 |
19K14943
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
志垣 俊介 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (50825289)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 全方位移動型トレッドミル / 雌探索行動 / 生物模倣型ロボティクス |
研究実績の概要 |
本研究では,昆虫の雌探索行動を主な観測対象として,昆虫が有する環境・身体の特性と神経情報処理の相互作用から生じる状況適応的な行動選択指標の獲得に取り組む.2019年度は,研究計画に沿って(1)全方位移動型昆虫トレッドミルという新奇の計測系の構築,及び(2)神経行動学実験系の確立を行った.項目(1)における全方位移動型昆虫トレッドミルは昆虫(カイコガ雄成虫)の行動量に応じて移動するため,カイコガは計測装置上にいながら実環境下を匂い源探索可能である.全方位移動型昆虫トレッドミルの検証実験として,カイコガ雄成虫を搭載した全方位移動型昆虫トレッドミルに雌探索を実施させた.その結果,探索開始の初期姿勢に関係なく雌の性フェロモン発生源に到達可能であった.このことから,全方位移動型昆虫トレッドミルは所望の性能を発揮したといえる.また,項目(2)においては,今後の実験において必要不可欠な神経行動学の実験系の確立を行った.神経行動学的実験では,カイコガ雄成虫の前運動中枢系(側副葉)に微小電極を刺入し,周期的なフェロモン刺激入力に対する生理応答と行動変化の関係性を取得した.その結果,フェロモン刺激の受容量に応じて行動が確立的に変化することを明らかにした.加えて,カイコガ雄は雌探索中に風向に応じて行動調整を行い,探索性能を向上させていることも明らかとした.これらの成果は,査読付国際論文誌3編,査読付国際会議講演4件,ほかにおいて発表された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,自律移動体が苦手とする匂い源探索問題を題材に,昆虫の適応行動のモデル化と実装を目指す.これが達成された暁には,昆虫の適応行動の源泉の解明に貢献できるだけでなく,屋内外における危険物やガス漏れ源の特定を可能とするロボットシステムの構築に繋がる. 2019年度では,実験計画通り,全方位移動型昆虫トレッドミルの構築及び評価実験を行った.また,神経行動学実験を実施可能な計測系の構築を行い,昆虫の雌探索行動と脳神経応答の同時計測実験に成功した.その結果,匂いの受容頻度に応じた行動調整がなされていることを明らかにした.加えて,匂い以外の感覚器情報をどのように統合し,行動に反映しているかを解析するために,風刺激及び視覚刺激を提示する実験系の確立を行った.これらの成果は,査読付き国際論文誌や国際会議に採録され,国内外に新たな知見をもたらしたとして注目された.以上の観点から,2019年度の進捗状況は全方位移動型昆虫トレッドミルの構築以上の成果を得ることができたといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度以降は,2019年度に構築した全方位移動型昆虫トレッドミルを用いてさらなる行動実験を行うとともに,得られた生物実験データを情報熱力学の観点から解析を行う予定である.しかしながら,2020年度前半は,新型コロナウイルスの感染拡大の影響により,生物実験の実施を一時中断しなければならない状況にある.そのため,2020年度前半はこれまでに得られた実験データに対して深層学習や確率過程を用いて定量的な解析を行い,探索中の昆虫が行動を選択する際の評価関数の抽出を実施する.この解析結果から,新型コロナウイルスの収束後の生物実験の計画を組み立てることで,生物実験の効率化を図る.現段階では,全方位移動型昆虫トレッドミルは昆虫の感覚情報と運動機能に操作を加えることができるため,意図的に昆虫へ与える入力と行動出力に矛盾を生じさせ,どの状況下でどのような行動調整がなされるかを調査できる実験設定とする.以上より,2020年度以降は,神経行動学的な実験とデータ科学的な解析を相補的に実施することで昆虫の適応的な匂い源探索アルゴリズムの獲得を行う予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により,動物実験に必要な薬品の納品が遅延したことから,2019年度末に予定していた動物実験を中止せざるを得ない状況となった.そのため,2019年度末に計画していた動物実験を2020年度中に行うこととして,必要な消耗品購入費として予算を繰り越した.
|