研究課題/領域番号 |
19K14970
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
萬年 智介 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90806754)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | パワーデバイス / 短絡動作 / 電力変換器 / スタートアップ |
研究実績の概要 |
本研究では,電気自動車の車載充電器の小型化・低コスト化を目的とした,電力変換器のスタートアップ手法の開発および,その信頼性の評価を行う。これは,電力変換器のパワーデバイスを極限状態において動作させることによって,変換器の低コスト化・小型化へのボトルネックであったスタートアップ回路を不要とできる技術の研究である。 本年度は,スタートアップ動作におけるパワーフロー解析とパワーデバイス内で消費されるエネルギーの影響評価を実施し,下記の成果を得た。 (1)スタートアップ時の過電圧抑制のためにパワーデバイス内で消費すべきエネルギー量は,直流コンデンサ容量と過電圧設定値により最小値が決定することを示した。しかし,実際の消費エネルギーは,制御法によって変化することを,理論および実験の両面から明らかにした。 (2)また,エネルギー消費を目的とした場合,長時間の短絡を1回行うよりも,短時間に分割して複数回短絡した方が,パワーデバイスの劣化を抑制できることを実験的に明らかにした。これは,パワーデバイス内部で消費するエネルギーの総量よりも,短絡1回あたりのエネルギー量の方がパワーデバイスの特性に与える影響が大きいことを意味する。また,複数回短絡では,パワーデバイスにおいて数usの短絡動作を数十usの間隔をあけて複数回繰り返す。すなわち,数十usという短時間の間に,パワーデバイス内部で生じた熱が拡散し,ピーク温度抑制に寄与していると考えられる。このことをシミュレーションによって確認し,パワーデバイスの特性劣化という観点からは,内部の温度変化サイクル数よりも,ピーク温度抑制が重要であることを明らかにした。 以上の成果について,国際会議で発表を行ったほか,論文投稿を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,1年目に予定していたパワーフロー解析を完了した。 また,1年目後半から2年目前半にかけて実施する予定であったパワーデバイスの損失と熱ストレス評価については,検討事項のおよそ半分に当たるデバイスの熱ストレス低減をシミュレーション検討と実験により確認した。 以上の結果により、本研究は当初予定した通りの進捗が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,実験波形から短絡時のデバイス温度を推定する手法について検討し,実際の実験では直接測定できないデバイスのピーク温度と短絡回数の関係を明らかにする。 また,電流定格やメーカー・構造の異なる種々のパワーデバイスに対して,本スタートアップ法を適用し,その耐久性について評価する。 以上の結果をもとに,専用のスタートアップ回路がない場合においても,従来のスタートアップ回路を用いた場合と同程度の性能が得られることを明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関の異動に伴い、異動先機関現有の設備を有効活用することにより、設備費用を当初の見込みより少なく抑えられた。また、参加予定の国際会議が社会情勢を反映して中止となり、確保していた外国旅費に残額が生じた。以上の理由により、次年度使用額が生じた。 次年度においては、耐久性評価を実施するにあたり、より多くの項目を同時測定するための大電流・高電圧プローブ、周辺温度の影響を排除するための恒温槽、より安定な実験環境のための電源装置等を購入することによって、より評価に適した環境を構築する予定である。
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