研究課題/領域番号 |
19K14979
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
宮路 祐一 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50712923)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 帯域内全二重 / 自己干渉除去 / 送受信機の非理想性 / 適応信号処理 |
研究実績の概要 |
電波資源を有効に利用する技術として,帯域内全二重の技術課題に取り組んだ.帯域内全二重を阻害する大きな問題に自己干渉がある.自己干渉は受信したい信号に対して数十デシベルから百デシベルほど大きく,また送受信機の非理想性により歪んでいる.非理想性による歪を考慮した自己干渉除去フィルタは一般に,計算コストが高く,収束特性が悪い.本課題では,高精度,低計算量,高速収束を同時に達成するフィルタを開発する. 初年度では,送受信機の非理想性を解析的に分解・再構成し上記の目標を達成する自己干渉除去フィルタの開発に取り組んだ.具体的には,送受信機の非理想性として無線機のIQミクサ,電力増幅器による歪みについて検討した.開発したフィルタでは,フィルタの解を得る上で必要となる方程式の未知数の数を最小化している.また,非理想性を演算子により表現することで,大きな連立方程式を小さな連立方程式に分解できる.ただし,それぞれの小さな連立方程式は相互関係があるので,その相互関係を緩和するために逆演算子を用いる.これらにより,最終的に小さな連立方程式を繋ぎ合わせ,逐次的に解を更新することで,所望のフィルタの解を得ることができた.開発したフィルタを計算機シミュレーションにより評価したところ,従来手法に対して除去量が3デシベル改善しただけでなく,計算量を10分の1,収束性能を16倍にできた. この他にも,ディジタル信号処理によるアナログ自己干渉除去フィルタの開発や理論解析手法の構築,ソフトウェア無線機による実験環境の構築を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に予定していた,送受信機の非理想性を考慮した自己干渉除去フィルタの開発は順調に進めることができた.加えて,ディジタル信号処理の機能を活かしたアナログ自己干渉除去フィルタの開発においても良好なシミュレーション結果を得ることができた.上記の結果から,計算機シミュレーションに関して,当初の計画通りの進捗を得られている.一部の成果については学術誌に採録決定している. 理論解析においても,同様に,送受信機の非理想性を考慮した解析手法を構築することができた.理論解析結果と計算機シミュレーション結果が一致することを確認しており,これらの結果は学術誌への投稿準備中である. 実機実験においては,ソフトウェア無線機によりシステムの一部を評価することができている.初年度においては,送受信機の非理想性を極力排除した実験系を 構築し,ソフトウェア無線機の自己干渉除去性能の上限を見極める検討を実施した.これまで30デシベル程度の除去しかできないと考えられていたが,実験手法を精査しベースバンド無線に基づく実験系とすることで,さらに10デシベル以上除去できることを確認した. これらから総合的に判断して,順調に研究が進展しているという判断は妥当であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた自己干渉除去フィルタに関する知見を,理論解析と実機実験によって裏付ける.多くの既存研究はこれらのいずれかでしか評価されていないため,計算機シミュレーション・理論解析・実機実験での三方向から性能を保証することができれば,帯域内全二重の研究において大きな影響を与えることができる. 当初購入予定であった信号発生器に関しては,より上位機種を利用できる環境が整ったため,ソフトウェア無線機での実験環境の拡充に変更する.この変更により,より柔軟な実験評価が可能になると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた信号発生器について,より上位機種を使用できる目処がたったため,より良い使用用途を計画するために次年度使用額が生じている.次年度使用額に関する使用計画について,ソフトウェア無線機による実験環境を拡充するための高周波部品とソフトウェア無線機を制御するための計算機に対して使用する予定である.
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