研究課題/領域番号 |
19K14985
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
岸川 博紀 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (00759722)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 16相直交振幅変調 / 8相直交振幅変調 / オンオフキーイング / 四光波混合 / 位相感応増幅 / 自己位相変調 / 利得飽和 / 相互偏波変調 |
研究実績の概要 |
ネットワークの低遅延化は、多くの産業で将来利用が期待される遠隔操作や自動操縦といった情報通信技術を活用した取り組みにおいて重要な課題である。本研究では、ネットワーク間接続光ノードにおける処理遅延を1000分の1程度に低減するため、変調方式変換技術を確立することを目的とする。将来の1テラビット級伝送で適用される4相位相変調(QPSK)、直交振幅変調(QAM)に関する変換技術には、波長およびチャネル数の変換技術の確立も必須となる。従来法と比較し省電力で実現できる原理を見出すため、光・電気信号処理技術を用いた変換法を検討する。2020年度では16相直交振幅変調(16QAM)方式から他方式への変換技術および波長・チャネル数変換技術を検討し、現在のところ以下の実績を得ている。
16相直交振幅変調(16QAM)から8QAMへの変調方式変換技術:光信号処理技術のみを用いた変換手法を考案した。高非線形ファイバや半導体光増幅器中で生じる非線形現象である四光波混合、位相感応増幅、自己位相変調、利得飽和を用いて、16QAM信号から同相・直交成分を抽出し、片方をQPSK信号へ変換し、もう片方はOOK信号へ変換し、それらを用いてQAM信号へ変換した。本提案の実装法を考案し、計算機シミュレーションで信号点配置により検証した結果、所望の変換動作を実証した。
QPSKからOOKへの変調方式変換技術:光信号処理技術のみを用いた変換手法を考案した。QPSK信号を遅延干渉計に通して振幅が2段階ある信号を作り、高非線形ファイバ中の相互位相変調に基づく相互偏波変調によりOOK信号への変調方式変換と波長変換を達成した。情報量の関係で1つのQPSK信号からは2つのOOK信号へと変換できるため、QPSK信号1波長チャネルからOOK信号2波長チャネルへの波長・チャネル数の変換も達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で示したように、当初計画した変調方式間の変換手法が考案・実証できていて、おおむね順調に進捗していると判断している。一方で、提案した16QAMから8QAMへの変換は非線形効果を多用しており、消費電力の大きさと信号品質の劣化が課題である。本変換手法の流れは具体的には以下ようになる。高非線形ファイバ中の非線形現象である四光波混合を用いて16QAM信号から位相共役光を生成し、それと元の16QAM信号とのベクトル合成により直線状の同相および直交成分を抽出する。同相成分に対して半導体光増幅器中の自己位相変調(SPM)および利得飽和(GS)により位相回転させることでQPSKに変換する。ここまでは代表者の研究室で提案してきた手法に基づいている。その後8QAMに変換するために必要になるOOK信号を、先に抽出した直交成分に対して四光波混合に基づく位相感応増幅現象を用いてOOKへの変換と波長変換を行う。最後に、生成したQPSK信号およびOOK信号を半導体光増幅器中のSPMおよびGSにより位相回転・振幅変調することで8QAM信号へ変換する。
もう一方で提案したQPSKからOOKへの変換の特徴について述べる。OOKは最も単純な変調方式であるが、複素平面上では原点を中心として非対称な形状をしており、非線形効果等を用いても他の変調方式からの変換が難しく、先行研究が少なかった。本提案方式では受動回路である遅延干渉計を用いている点に特色があり、低消費電力化に寄与できるものと考えている。変換特性の数値目標である、遅延時間5マイクロ秒以下及びエラー訂正前のビット誤り率3.8×10^(-3)以下は達成できることを明らかにした。本研究成果は国際会議論文として発表するため原稿を投稿している。実験検証も翌期にかけて実施したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、進捗状況で示した各手法の実験的検証を実施することを考えている。並行して、当初計画に沿って64QAM信号に関する変調方式変換技術および波長・チャネル数変換技術の研究を行う。64QAM信号への変換は16QAM信号とQPSK信号のベクトル加算で実現可能であるため、受動回路を用いた低消費電力な手法を検討したい。一方で64QAM信号から他への変調方式変換技術および波長・チャネル数変換技術の考案も行う。64QAMからの変換は先行研究がなく実現可能か分かっていないため、原理考案が困難になると予想されるが、電気信号処理や光学現象・効果による光信号処理の援用を考慮して検討を進める。変換回路の考案、計算機シミュレーション及び基礎実験による動作検証も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:新型コロナウイルス感染症の拡大により海外旅費として確保していた予算は使用しなくなり、使用計画の変更を行った結果、次年度使用額が生じた。 使用計画:次年度において実験検証で必要な光コネクタやクリーナ等の消耗品と合わせて使用する予定である。
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