研究課題/領域番号 |
19K14988
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
佐藤 光哉 東京理科大学, 工学部電気工学科, 助教 (60822533)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 無線通信 / ビッグデータ / 空間統計 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、クラウドに集約した膨大な電波環境情報を空間・周波数・時間の3軸で解析することで高精度な電波環境推定を実現する技術の確立である。今年度は、主として電波マップの周波数軸上での変動特性の推定手法の確立に従事した。まず、3つの周波数帯域で実測した電波環境情報の周波数相関性を検証したところ、いずれの周波数の組み合わせにおいても一定以上の高い相関が確認された。この点を踏まえ、従来の空間統計学に基づく電波マップ構築法を周波数軸へ拡張する手法を提案した。本手法は、複数周波数上で観測されたシャドウイング値の対数平均を補間対象である周波数上でのシャドウイングとして取り扱う点に特徴がある。その後、本周波数上に従来の空間内挿を施すことで、簡易に空間-周波数軸での電波環境推定が実現できる。精度評価の結果、距離減衰モデルのみに基づく空間-周波数軸補間手法と比較して精度良く電波マップを構築できることがわかった。 また、時間軸の統計情報の高精度なモデル化に向けた検討も行なった。車車間通信を用いて取得した実データセットを検証したところ、マルチパスフェージングによる瞬時変動要素の確率分布に空間相関性が確認された。そこで、これらを面的にクラスタリングする手法を検討した。数m四方のメッシュごとに実測値を統計処理し、この確率分布を保存することで時間軸への対応が可能である。しかし、メッシュ数分の確率分布情報の蓄積が必要になるため、データ量が増える他、クラウドへのアクセス回数が増える恐れがある。上記のようなクラスタリングを施すことで、電波環境の推定精度を保ちながら、クラウドへのデータの蓄積量を90%以上削減できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初課題1, 2で設定していた時間および周波数軸の電波環境推定について、いずれも手法を提案の上その効果を評価することできた。そのため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
時間および周波数軸の解析手法について、引き続き実測データを用いつつ検討を深める予定である。これまで本代表者は、上記の研究検討と並行し、機械学習を用いた電波マップの解析手法の検討も行なっている。このような手法の多次元化により、より高精度な推定の実現が期待できる。 また、次年度以降は本研究で提案する電波環境解析手法を活用した通信方式の検討にも従事する予定である。本研究では、本手法の応用先に異システム間の周波数共用を主対象として想定している。一方、IoT(Internet of Things)システムや無線LANのような、端末が過密に存在する同一システム内での高効率通信にも適用可能である。近年注目を集めている無線ネットワーク上での分散機械学習への応用も見据えた検討を行なうことで、本研究で構築した手法の適用機会の幅広さやその効果を示すことを計画している。 これらの研究成果は、IEEE国際会議や国際学術論文誌へ投稿する予定である。人工知能や機械学習の無線応用を見据えた研究者が集まる場へ積極的に投稿することで、本研究の有効性や今後の発展性を幅広くアピールしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
提案手法の演算量が当初の想定と比較して軽量であり、計算資源に関する支出を抑えることができた。そのため、次年度使用額が生じた。次年度以降は、本研究で提案するシステムに基づく通信方式の検討を進める予定である。本検討では複数端末が協調するシミュレーションを行なう予定であり、並列演算が可能な計算資源を導入することで効率的な研究の遂行が見込まれる。そのため、当初計画していた物品に加え、グラフィックボードの購入を検討している。
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