本研究の目的は、広帯域(UWB)無線技術を用いた運転者の健康緊急サービスを提供できる車内高信頼性医療センサシステムの開発である。これを実現するための課題としては、(1)広帯域バルス信号を車筐体内に伝搬する際に、生体組織を含めたパルス伝搬の電磁界解析手法の開発、(2)人体を考慮した車内UWB伝搬通信路モデルの実測による評価。2021年度では,人体組織の周波数分散特性を考慮できる解析アルゴリズムを更に改良し、広帯域パルスを多層構造である誘電体球モデルに入射時の周囲電界を算出し、散乱界の理論値(ミー散乱)との比較によって解析手法の妥当性を確認することができた。 次に、実際なUWBディスクモノポールアンテナを試作し、運転姿勢を持つ人体のシャドウィング影響を考慮した車内伝搬測定を行った。具体的に、送信アンテナは車内のルーフトップに取り付けられ、受信アンテナは、頭、胸、手首、足など人体のさまざまな部分に装着し、ベクトルネットワークアナライザを使用して送受信アンテナ間の伝達関数を取得した。フーリエ変換によるチャネル応答の処理に基づいて、各チャネルの電力遅延プロファイルを取得できる。その結果、人体に装着した垂直偏波の受信アンテナは、送信アンテナ(水平偏波)との偏波ミスマッチにより、より大きな値の遅延拡散を示す。また、受信アンテナの位置が上半身から下半身(足)に変わると、遅延の広がりは単調に減少し、最終的には水平偏波を持つ受信アンテナよりも小さくなることがわかった。これはマルチパス反射と人体ボディシャドウイング効果の総合影響による結果であり、車内UWB無線チャネルの特性に大きな影響を与える可能性があることを示している。 人体影響と車内伝搬環境を克服できる超広帯域アンテナの開発と無線通信品位の更な向上は今後の課題である。
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