今年度は、大気ゆらぎが光空間通信の情報漏えいに及ぼす影響をより定量的に評価するために、電気通信大学(東京都調布市)と情報通信研究機構(東京都小金井市)を結ぶ7.8km自由空間光リンクで数カ月間に渡る長期間の光伝搬実験を実施した。この実験では、大気ゆらぎの評価を、受信局側での光強度ゆらぎからの推定と、初年度に設計と開発を完了していたDIMM(Differential Image Motion Monitor)装置による測定という、2種類の方法により実施した。両者の測定結果はよく相関しており、1日の中でも昼頃には大気ゆらぎが強く、夜間には大気ゆらぎが小さくなるといった光空間通信装置の設計にも有用な知見を、7.8kmという長距離な水平光リンクで確認することができた。 また、この実験からは、昼間よりも夜間において漏えい情報量が高くなる傾向があることも見出すことができた。これは夜には大気ゆらぎが安定するため、盗聴者も光を受講しやすくなるためと予測される。これにより、物理レイヤ暗号の性能と大気ゆらぎの関係を定量的に結びつけることができ、同時に物理レイヤ暗号の設計を行うためにDIMM装置などで測定した大気ゆらぎの情報を用いることができるという新しい設計指針も確率することができたと言える。 今後、令和3年度中の投稿を目処にし、上記の結果についての論文を執筆しする予定である。また、研究の過程で、DIMM装置にまだ改善の余地があることも明らかになっている。この改善を実施し、装置の測定精度を向上させることにより、多くの新たな知見が得られることが期待される。
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