研究課題/領域番号 |
19K15004
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
井邊 真俊 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (00760191)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コヒーレンス / 熱放射 / 温度計測 / 干渉計測 / フーリエ光学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,物体から放出される電磁波(熱放射)の空間コヒーレンス測定により物体温度を決定する計測手法を確立することである.本年度は物体(光源,熱放射源)の空間コヒーレンスの計測方法の検討とそのための干渉計の設計・構築を進めた. 空間コヒーレンスの原理説明にも用いられるヤングの干渉実験では2つのピンホールの操作と逐次計測が必要になり現実的ではない.そこで,シアリング干渉計を用いた相互コヒーレンス関数の一括計測手法の適用を検討した.相互コヒーレンス関数から可干渉領域であるコヒーレンス領域がわかり,空間コヒーレンスも知ることができる.ただし,この手法では,空間的にインコヒーレントな光源からの回折波の相互コヒーレンス関数を計測する.すなわち,光源面における光源そのもの空間コヒーレンスではなく,回折により生じる空間コヒーレンスを観測面で求める.また,観測面において回折波の相互コヒーレンス関数は2点の位置差だけに依存し,原点に依存しない性質が求められる.対して,本研究では物体を部分コヒーレントとして扱い,光源の相互コヒーレンス関数を求める.以上から,本研究でシアリング干渉計を適用するためには,観測面における相互コヒーレンス関数を求め,それから光源面における相互コヒーレンス関数算出できるようにする必要がある.これを実現するための物体の空間分布や位置関係,干渉計の条件について検討し,その条件を見出した.これに基づきシアリング干渉計の構築を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,光源の温度とその熱放射の空間コヒーレンスの関係の理論的な解明に先立ち,熱放射の空間コヒーレンスの計測法について,実用性も含めた上で検討した.当初の予想とは異なり,一般のシアリング干渉計による空間コヒーレンス計測法は原理的にそのままでは適用できないことが判明したので,物体や光学系の条件を定め,計測可能な干渉計測手法を見出した.この過程で光源面と観測面の空間コヒーレンス関係についても検討し,その結果,光源面の空間コヒーレス関数と温度の関係についての仮設も立てた.計測のための干渉計の構築も,これまでの干渉計測の知見を活かして順調に進んでおり,理論的な温度との関係の解明と同時に実験的な検証ができるようになったので,おおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き空間コヒーレンスと温度の関係について,理論と実験の両方から解析を進める.本年度は空間コヒーレンスを求めるために相互コヒーレンス関数に着目した.これに加えて,その時間周波数領域の相関関数である相互スペクトル密度についても検討を進める.こちらは,コヒーレンス・ラディオメトリの分野で放射輝度などの光の放射量と放射輝度とコヒーレンスを関連付ける.熱放射の温度と放射輝度はプランクの法則で定式化されているので,これと合わせて,コヒーレンスと温度の関係を調べる.ただし,本研究の目的である,放射率に依存しない計測を達成できるか,現実的な光学系で計測できるかについても検討が必要である.また,求めた空間コヒーレンスが温度とは別に干渉計固有の因子に依存する可能性もある.これについては,当初の予定通りに,温度―コヒーレンスの標準放射源を作製し,干渉計に起因する干渉縞画像と温度への影響を校正により決定することを考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,干渉計の設計,構築,および計算に注力し,当初購入を計画していたカメラなどの購入は見送ったため次年度使用額が生じた.翌年度にカメラ,標準放射源の作製,試料および標準放射源の温度変調のための加熱用装置,光学素子などの購入に使用する予定である.
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