研究課題/領域番号 |
19K15015
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
川口 夏樹 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (90824392)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 入力冗長系 / 適応制御 / 零空間補償制御 |
研究実績の概要 |
本研究「入力冗長系の高効率制御を実現する入力分配器の適応構成法」では,冗長な入力系統を有する動的システムを対象とし,その冗長性を活かした高性能かつ高効率な制御系設計法の確立を目指している.
冗長系では複数の異なる特性を有する駆動源を適切に組み合わせることにより,システムの運動性能を高めたり,付加価値を与えることが可能である.その反面,複数の駆動源が発揮する力が互いに打ち消しあい,結果として余分なエネルギー消費や機器の摩耗を引き起こすことが課題である.力の相殺が生じないように制御器を設計すれば極めて高効率な冗長制御系を構成できるが,そのためには,従来,制御対象の詳細な数理モデルが必要であった.そこで制御対象の数理モデルが不明瞭な場合においても,余分な制御力の相殺が生じないよう自動的に調整する機構を持った制御系を設計することが望まれる.適応分配器の設計法を確立することで,対象の特性が不明瞭であったとしても,余分なエネルギー消費や機器の摩耗の極めて少ない高効率・高性能な冗長制御系が実現できる.
本研究では複数の駆動源に与える制御入力の配分を適応的に調整することが可能な「適応分配器」を提案している.初年度の本年は,冗長系において状態の駆動に寄与しない入力成分を零空間成分として特徴付け,これを適応分配器により補償する「零空間補償制御」の概念を提唱した.この適用例として2入力1出力の線形系を選択し,規範となるモデル出力との制御誤差の漸近安定性を保証する適応制御則を導出した.また数値シミュレーションによりその有効性を確認することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,入力冗長系を対象として,複数の駆動源に与える制御入力の配分を適応的に調整することが可能な「適応分配器」を提案している.初年度の2019年度は,この適応分配器を用いて制御入力を補正し,冗長系の内部で相殺される入力成分を補償するために冗長系の「零空間」に着目した.零空間は入力冗長系のパラメータ行列の持つ部分空間であり,冗長系に固有の特性である.冗長系に対して印加する制御入力のうち,この零空間に含まれる成分は冗長系内部で相殺され,状態の駆動に寄与しない.そこで,モデル追従制御を行いながら対象に固有の零空間を間接的に推定し,その成分を補償する制御手法として「零空間補償制御」を提唱した.
零空間補償制御では,適応分配器を通して冗長系の各入力に互いに異なる持続的な励振信号(試験信号と呼ぶ)を印加し,その状況下で規範モデル追従制御を達成する適応制御則を駆動する.これにより,試験信号を相殺するように適応分配器が動作し,結果として冗長系の零空間を間接的に推定することが可能となる.この適応分配器に基づいて制御入力を補正することにより,適応的な零空間補償が可能となる. この零空間補償を実現するために,適応分配器,零空間補償機構を含めた系全体の安定性を補償する補償器の構造,および適応則を理論的に導いた.提案法では,零空間補償を達成しながら,設計者の与える規範モデルの出力へ冗長系の出力が追従することがLyapunov関数を用いた議論により保証される.また数値シミュレーションを行ってその有効性を確認した.
以上の成果をまとめた論文を学術雑誌に投稿し,次年度(2020年度)の学術雑誌での掲載が決定している.また関連する成果を初年度3月の国内の学術会議にて発表した.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の本年は,課題解決のための基礎的な概念である「零空間補償制御」を提唱し,学術雑誌上で論文として発表することができた.今後の研究の推進方策として,以下の2点を考えている.(1)理論の一般化(入出力数,システムの次数の拡張,またより広範なクラスの対象への一般化),(2)実験機を用いた理論の実証,以下にそれぞれ詳しく述べる.
(1)理論の一般化について...初年度で検討した零空間補償制御の対象は2入力1出力の1次系という非常に限られたクラスである.提案法をより広範囲な対象に適用するためにも,対象の入出力数や次数を拡張する必要があると感じている.ただし,提案法の考え方に基づいて,これらの拡張を行うことは十分可能であると考えているため,引き続き理論の開発に取り組む.また提案する零空間補償制御は,線形代数の考え方である零空間に基づいているが,これは制御力が入力に対して線形に生成されている限り有効である.したがって,対象の動特性が非線形であっても入力アファインな系であれば適用できる可能性がある.こうした論拠に基づいて,非線形な対象に対する適用可能性を模索していく.
(2)実験機を用いた理論の実証...初年度は零空間補償制御の基礎的な理論構築という面でおおむね順調に進展した.しかし理論を実際の対象に適用して検討するといった点で不十分であると認識している.実機として冗長ドローンの設計製作を進めているが,これを用いて実験を行うところまでは行えていない.したがって,今後は実機での検証も実施すべく研究を進展させる.
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