宇宙デブリの自然増加の抑制に有効である大型デブリ除去は、年間除去目標における費用対効果を考えたとき、小型衛星によって実施される必要がある。小型衛星に搭載可能な非力なアクチュエータシステムで大型デブリを効率的に落とすには、大気抵抗を積極的に利用することが有効である。 大気抵抗による降下速度を大きくしつつ衛星に働く外乱トルクや角運動量増加を緩和できる姿勢として国際宇宙ステーション (ISS)ではトルク平衡姿勢 (TEA)が採用されている。しかし、ISSでは平均軌道高度を約400kmに維持しているため、空力トルクの計算で要する大気密度は一定として近似可能であり、空力トルクと重力傾斜トルクの平衡点で表されるTEAも一定として扱うことが可能であった。一方でデブリ除去衛星の場合は、再突入に向けて軌道高度を時々刻々と変化させるため、大気密度を一定と仮定することはできない。 そこで本研究では、空力トルクと重力傾斜トルクの釣り合い点を軌道高度ごとに求める高度依存型TEA誘導則を新たに設計し、軌道高度変化を要するデブリ除去ミッションへTEAを適用する方策を提案した。これにより、非力なアクチュエータを持つ小型衛星でも、無理のない範囲で空力断面積が大きくなる姿勢をとることができ、より速くデブリを落下させることが可能となった。 また、大気密度モデル等のモデル化誤差を、軌道一周回分で働いたトルクの蓄積量から正しい平衡姿勢を学習し修正する適応誘導則を提案した。さらに、残留するモデル化誤差や軌道上外乱に対してロバストな制御器を設計することで、宇宙空間やモデルの不確かさにロバストな降下システムを確立した。
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