研究課題/領域番号 |
19K15022
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山原 弘靖 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (30725271)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピンクラスターグラス / スピン波 / 希土類鉄ガーネット / フレクソエレクトリシティ / コプレーナ線路 |
研究実績の概要 |
パルスレーザー堆積法によりGd3Ga5O12基板上に堆積したSm3Fe5O12薄膜では1.2%の格子不整合が存在し、転位が発生する臨界膜厚は60 nmと見積もられる。結晶構造解析の結果、臨界膜厚以下の膜厚では均一に格子歪みを受けた正方晶となり、膜厚が十分に厚い層では格子緩和した立方晶が存在することがわかっており、さらに原子分解能を有する走査型透過電子顕微鏡によって、臨界膜厚付近の正方晶と立方晶の境では15 nmの厚みにわたって、面直の格子定数は一定である一方、面内の格子定数が膜厚とともに増加する傾斜歪みが存在することが明らかになっている。非線形誘電率顕微鏡によって、傾斜歪み構造において平均径約30 nmの負に分極したナノドメインの存在が観察され、フレクソエレクトリック効果による分極発現だと考えられる。さらにX線磁気円二色性分光によって、正方晶、傾斜歪み、立方晶の各層の磁気特性を調べた結果、各層はそれぞれ磁気ヒステリシスを示し、正方晶、立方晶の層では保磁場が0.02Tであったのに対して、傾斜歪み層では0.11Tという非常に大きい保磁場を示すことが明らかとなった。以上の結果、希土類鉄ガーネットの傾斜歪み構造において磁化と残留分極が共存することが見出され、多機能な情報記憶材料として応用が期待される。 希土類鉄ガーネットのスピンクラスターグラスについて、希土類鉄ガーネットに異方性Co2+と非磁性Si4+を置換したLu3Fe5-xCoxSixO12はスピンクラスターグラスとなることはこれまでに報告しており、エージングメモリ効果のリザバー計算への応用を目的として、短期記憶性能の評価を実施した。スピン凍結温度付近で磁気緩和の時定数が最大となるとともに、短期記憶性能が向上することが見出され、リザバー計算への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
希土類鉄ガーネットの傾斜歪み構造において、フレクソエレクトリック効果による誘電分極とフェリ磁性磁化の共存が確認され、多機能情報記憶材料としての応用が期待される。その成果は論文報告としてまとめられている。また、スピンクラスターグラスの短期記憶性能はリザバー計算における優位性が確認されている。スピン波素子の特徴である位相干渉を用いた演算についても評価を進めており、順調に技術開発が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
スピン波素子において、表面波と後進体積波の位相干渉を評価しており、スピン波干渉と外場制御を用いた演算性能を実証する。これまでの材料開発(ガーネット構造スピンクラスターグラス、傾斜歪みによる多機能情報記憶材料)、シミュレーションによる性能実証(スピンクラスターグラスの短期記憶性能)、スピン波素子の動作実証(位相干渉と外場制御)の成果を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により旅費の支出が交付決定時の予定よりも減っている一方、オンライン会議において研究調査や報告を実施しておりその他に計上されている。
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