研究課題/領域番号 |
19K15024
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
鈴木 雅視 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (60763852)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 弾性表面波 / 多層構造基板 / 周波数フィルタ / AlN薄膜 |
研究実績の概要 |
漏洩弾性表面波(LSAW),縦型漏洩弾性表面波(LLSAW),レイリーSAW(RSAW)高次モードは高位相速度と高結合係数を有するため,高周波SAWフィルタ応用に適している。そこで,本研究では「高SAW位相速度, 高結合係数,低SAW伝搬減衰,高い温度安定性」を両立し,かつスパッタ法で形成可能な「他元素添加AlN層/高音速層/基板」からなる多層構造基板の探索とSAWデバイス応用を目的とする。 【CrAlN膜の圧電特性評価】Cr1-2%の添加による結合係数増幅が再現性よく実現できる成膜条件を見出すことに成功した。一方で,Cr添加により表面粗さが著しく大きくなる(SAWフィルタ応用では低O値の原因)ことが観測された。 【最適構造の探索】LLSAW及びLSAWにおいて最適構造と見出した「c軸平行ScAlN膜/水晶基板」に高音速層を挿入した場合のSAW伝搬特性を検討したが,特性のさらなる向上は見られなかった。一方で,RSAW高次モードにおいて,「極性反転ScAlN層/高音速層(AlN,BN)/基板」にてc軸平行ScAlN膜/水晶基板構造を伝搬するLSAW,LLSAWに匹敵する高位相速度と高結合係数が実現できることを見出した。この構造ではScAlN膜の結晶方位制御が必要なく,より実現性が高い構造である。 【AlN系膜の分極方向制御の開発】RSAW高次モードに最適な「極性反転ScAlN層/高音速層/基板」を形成するためには,ScAlN膜の分極を制御する必要がある。そこで,SiまたはGeドープによる分極制御を用いた分極反転構造AlN膜の形成およびSiAlN,GeAlN膜の圧電特性評価を行った。既報通りにSi,Geを添加することでAlN膜の極性が制御できることを確認し,分極反転AlN多層膜(8層まで)の形成にも成功した。一方で,Siドープ濃度が増加するに従い結合係数が低下することもわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論解析にて高周波SAWフィルタに最適な層構造基板の新たな候補として分極反転ScAlN膜/高音速層/基板の組み合わせを見出した。昨年度までの最適構造ではScAlN膜の結晶方位を制御する必要があり,実現困難・産業応用も難しい状況も想定されたが,今回見出した構造では結晶方位制御が必要ないため,より実現が容易だと考えている。 また,この構造を形成するための分極制御法をAlN膜においてではあるが確立し,2021年度に実施を予定している分極制御法のScAlN膜への適用,SAWデバイスへの展開に繋がる成果が得られたと考えられる。 以上より,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
【① RSAW高次モード伝搬に最適な層構造基板の探索】「分極反転ScAlN膜/高音速層/基板」内の分極反転ScAlN膜の各層厚,高音速層の材料,膜厚の最適化を行い,さらなる高音速化,高結合係数化を目指す。また,分極反転層での高結合係数化のメカニズムの検討も行う。 【② Si,Geドープによる分極制御法のScAlN膜への適応】2020年度に達成したAlN膜の分極制御法のScAlN膜への適用を目指す。また,Si,Ge濃度がScAlN膜の圧電特性に及ぼす影響についても調査を行う。 【③SAWデバイス作製・評価】①②で得られた知見を基に層構造基板を作製する。その基板上にSAWデバイス用IDT電極の形成,SAWデバイスの周波数特性を測定し,SAW位相速度,結合係数,伝搬減衰,温度安定性を評価する。従来SAWデバイスの特性,および理論解析結果と比較することで,作製したSAWデバイスの優位性,問題点を検討する。 これらで得られた研究成果を取り纏め、論文投稿・学会発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの影響により学会参加用の旅費がほとんど発生しなかった,また同研究テーマで実施している民間研究助成金(2020年度で終了)を優先して物品費に充てたため,次年度使用額が生じた。 2021年度も旅費は少額となることが予想されるため,未使用額については物品の購入費として使用する。
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