本研究では、絶縁体-金属間を急峻に相転移するVO2と、原子レベルの薄さ故に優れた電界制御性を有する二次元MoS2とを組み合わせることで、既存の電界効果トランジスタを凌ぐスイッチング特性を示す相転移トランジスタを作製し、論理回路への応用を目指したものである。本研究では、まず、相転移トランジスタにおいて急峻スイッチング特性を実現するため、VO2とMoS2との接合特性を詳細に調べた。その結果、接合においてはそれぞれのバンド構造から予測される特性とは異なり、フェルミ準位がMoS2のギャップ内にピンニングされていることが分かった。さらに、このフェルミ準位がピンニングされている位置は、VO2の相状態にほとんど依らないことも明らかにした。つまり、VO2とMoS2との接合においては、VO2が絶縁体、金属、両方の相状態においてエネルギー障壁が形成され、その結果、大きな抵抗が存在することが分かった。ここで得られた知見は、VO2を電極、MoS2をチャネルとする相転移トランジスタの高性能化実現において重要なものである。 次に、より低い抵抗を有するVO2/MoS2接合を実現することを目指し、VO2とMoS2との間に二次元材料バッファー層を挿入することを試みた。ここでは、バッファー層として六方晶窒化ホウ素(hBN)を選び、まず、hBN上でのVO2の薄膜成長を行った。その結果、hBN上に成長させたVO2薄膜を形成する結晶粒は、大きいものでマイクロメートルオーダーの大きさがあることが分かった。さらに、マイクロスケールの領域においてh抵抗-温度特性を調べると、わずか0.1 Kの温度変化で3桁以上も抵抗値が変化する、超急峻な相転移を示すことが分かった。したがって、今回得られた高品質なhBN/VO2積層構造を直接MoS2上に転写すれば、急峻なスイッチング特性を示す相転移トランジスタを形成できる可能性がある。
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