本研究課題は,シリコン基板表面上に直鎖状分子を修飾し,そこに単層カーボンナノチューブ(SWNT)の基本骨格となる環状分子を導入させ,環状分子同士を熱融合させることで,特定の螺旋度を有するSWNTの物理合成に関する研究である。 アルゴン雰囲気グローブボックス内で,特定のエチレングリコール(EG)をシリコン基板表面上に修飾させ,そこに環状分子を導入,熱融合させた。2019年度の研究では,円筒状構造を得ることに成功したが,環状分子やEGの熱分解物の存在により,いまだ低収率,低純度であったため,2020年度の研究では,シリコン基板表面上に修飾する分子を変更した。修飾分子をEGからシランカップリング剤やホスホン酸誘導体等に変更したところ,シランカップリング剤,ホスホン酸誘導体ともにEGと同様の結果となったが,熱分解物を除去した後のラマン分光分析から,円筒状構造の結晶性に違いが見られた。その結晶性は,環状分子の熱融合位置に関係があると考えられ,EGやシランカップリング剤では,シリコン基板上の分子膜密度が低い,または分子配列がまばらであることが環状分子の熱融合位置をずらす原因であることが示唆された。一方,ホスホン酸誘導体では,それとは反対の傾向があることが判明した。 得られた試料を微小量で測定可能な電極に搭載し,水系電解液中でサイクリックボルタンメトリー測定を行なったところ,ステップ状の酸化波・還元波がわずかに観測された。結晶性が高い試料では,そのステップの変化量が大きく,SWNTに由来するダンベル状の曲線が得られた。SWNTのvan Hove特異点を考慮して,酸化波・還元波の電子授受反応を考えると,今回の合成試料は,金属的な性質を含むことが示唆された。また,イオン種を変更した場合も同様の結果になったため,本手法を用いることで,特定の螺旋度を含有するSWNTを合成できることが判明した。
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