研究実績の概要 |
本研究は、局所的な電子状態に敏感な手法である高磁場下ミュオンナイトシフト測定と第一原理計算を組み合わせ、実用材料中における水素の電子状態に関する知見を得ることを目指している。初年度は電子がアニオンとして存在する新規エレクトライド物質LaScSiとその水素化物LaScSiHxのミュオンナイトシフト測定を行なった。LaScSiはLaが作る4面体とLa2Sc4の8面体が作る空隙 (V, V’) に対し、元素あたり最大で1.5個の水素を収納できることが明らかになっている。高効率なアンモニア合成の助触媒として機能する物質としても知られており、その背景に水素が関係していることから、水素の電子状態に関しても非常に注目を集めている。 そこで、VとV'に収納された水素の電子状態を調べるため、3つの水素濃度の試料(LaScSiHx: x=0, 1, 1.5)でミュオンナイトシフト測定を行い、その水素濃度依存性を調べた。その結果、2Kにおけるナイトシフトの値はx=0, 1, 1.5でそれぞれ-180, -120, -20ppmと、段階的に変化することが明らかになった。またそれぞれのシフトは温度変化を示すことも明らかになった。x=1.5におけるナイトシフトのシミュレーション値は-34ppmとなったが、実験値と大幅にずれていることが明らかになった。実験データの解析は帯磁率測定の結果と組み合わせる必要があるが、今回は文献値を用いているためにズレが生じていると考えられる。また、シミュレーション自体もマシン性能による制限から、必要な精度が足りてない可能性があるため、今年度、高性能マシンのセットアップやこれまでの計算結果の再現性の確認などに着手した。
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